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 交通事故死者をゼロにする――。2050年の目標達成に向けて、取り組みを加速させるのがホンダである。自動運転「レベル3」を世界で初めて実用化し、22年内には先進運転支援システム(ADAS)「Honda SENSING 360」(以下、HS360)を投入する。次世代HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)やV2X(Vehicle to Everything)といった将来技術も初公開したばかりだ。

 とはいえ、死亡事故ゼロという目標は、「言うは易く行うは難し」である。実際にどのようなシナリオで取り組んでいくのか。ホンダで安全技術開発を主導する髙石秀明氏(ホンダ経営企画統括部安全企画部部長 兼 本田技術研究所先進技術研究所安全安心・人研究ドメイン統括エグゼクティブチーフエンジニア)に疑問をぶつけた。

(聞き手は小川計介=日経Automotive編集長、久米秀尚=日経クロステック/日経Automotive)

ホンダで安全技術開発を主導する髙石秀明氏
ホンダで安全技術開発を主導する髙石秀明氏
(撮影:加藤 康)
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まず、50年に全世界でホンダ車が関与する交通事故死者をゼロにするという目標を設定した経緯から確認させてください。

 この目標は、ホンダ独自の考えではなくて、世の中の標準なんです。欧州委員会が2050年までに交通事故の死傷者をなくす「Vision Zero(ビジョンゼロ)」という考えを打ち出したのがきっかけ。ただ、ビジョンゼロの実現に向けて、具体的にどう取り組むかは示されていません。

 ホンダが死亡事故ゼロへの中間目標として設定した「30年までに全世界でホンダ車が関与する交通事故死者を半減」についても、世界保健機関(WHO)の指針に沿ったものです。大事なのは、目標達成に向けてシナリオを立てて、ロジカルに組み上げていくことです。

例えばSUBARU(スバル)は、30年までに交通事故死者ゼロを掲げています。数値目標を他の自動車メーカーと比べると、やや見劣りするのですが……。

 4輪の新車に限ってしまえば、当社も「30年ゼロ」は達成できると考えています。他社が言っているのと同じです。

 でも、ホンダが交通事故死者ゼロの対象としている範囲は4輪の新車だけではありません。2輪車を含めた、世界を走るすべてのホンダ車(保有車両)の死亡事故を減らしていきます。ホンダ車が関わる交通事故死者の数は20年時点で約10万人で、その9割以上が新興国の2輪車ユーザーです。

 50年の目標として「ホンダの2輪・4輪が関与する交通事故死者ゼロ」と明文化しましたが、正直なところ本心ではないんです。本当は、道路環境を使う交通参加者すべてで死者をゼロにしたいと思っています。

極論ですが、4輪車をすべて自動運転にすれば事故を減らせるという考え方もあります。30年、あるいは50年の段階でも手動運転は残るとみていますか。