iPhoneの販売不振が引き起こした「アップル・ショック」。先の見えない「米中貿易摩擦」。日本メーカーの行く手に暗雲が垂れ込める。中でも、iPhoneや中国メーカーのスマートフォン(中華スマホ)向けの事業への依存度が大きい部品メーカーに及ぼす影響は大きい。その象徴が、スマホ向け事業の比率が過半を占めるジャパンディスプレイ(JDI)だ。2019年3月期の業績を下方修正するなど、経営状況は深刻さを増しており、再建への道は険しい。
JDIも手をこまねいているわけではない。スマホ向け偏重の事業構造や、ユーザーの要求仕様に応えるだけの下請けのようなパネル事業から脱却するために、さまざまなグローバル企業で改革を推進した経営者である伊藤嘉明氏を17年10月に執行役員として招き、JDIの改革を託した。同氏は改革のための新組織を立ち上げ、18年8月にはスマートヘルメットの開発とB2C(企業対個人取引)事業への参入や、パネル販売後も継続的に収益を生み出すリカーリング事業への参入など、チャレンジングな発表をして周囲を驚かせた。
JDIの改革は待ったなしの状況だ。残された時間は長くない。伊藤氏が進めるJDIの改革は、その後どうなったのか。本人に直接話を聞いた。
スマートヘルメットの開発発表、B2C事業やリカーリング事業への参入表明を行い、JDIの改革を広くアピールしてから数カ月がたちました。スマートヘルメットは2019年の発売を宣言されましたが、既存事業に匹敵する大きな売り上げが見込めるとは思えません。また、18年12月の発表会では、B2C事業やリカーリング事業はまだこれからという印象を受けました。改革は進んでいるのでしょうか。
非常に大きな第一歩を踏み出せました。ソフトバンクグループ傘下の英アーム(Arm)が買収した、データ分析のプロである「トレジャーデータ」とアライアンスを組めたからです。我々の事業を「モノづくり」から「コトづくり」へ昇華させるために、そして“パネル売り切り”の部品事業からソリューション事業へのビジネスモデルの転換を図るために、絶対に必要なアライアンスでした。
私の役割は、外部の視点や異業種の経営の経験から、JDIの浮上策を持ち込むことです。その中で私が本当にやりたいのは、ビジネスモデルの転換です。
その前にJDIとしては、スマホ向けパネル一辺倒の事業構造はすぐに変えないといけません。スマホ向け以外の事業比率を上げる必要があります。これは私が2017年10月にJDIに参画する前から言っています。今も変わりません。それに向けて、スマートヘルメットなどの準備をしているわけです。しかし、ヘルメット事業がJDIの売上高の8000億円規模に届くかというと、そうはいきません。
そこで重要になるのが、ビジネスモデルの転換なのです。現在のJDIは、ディスプレーのパネル部分しか作っていません。いわゆるモノづくりです。しかも、モノづくりといっても部品だけで、完成品は作っていません。それを、完成品を含めたソリューションにしたいのです。コトづくりまで昇華させないといけません。