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ミミズに見えた初回試作

 でも、最初はそんなことは分かりません。まず、“ケンメリスカG"*5の実車のシルエット通りの抜き形をアディティブ製造(3Dプリンター)で作って生地を抜いて焼いてみたら全然違う形に焼けたんです。もうミミズにしか見えず、心が折れそうになりました。デザイン部門の要求が結構強くて、ちゃんとエッジを出してくれとか、スポイラーらしく見せてとか言われていたのですが、それどころじゃない出来でした。

*5 1973年発売のスカイライン2000GT。発売当初のキャッチフレーズ「ケンとメリーのスカイライン」から「ケンメリ」と呼ばれる。このモデル以降、1989年まで「スカイラインGT-R」は発売されなかった。
新型カキノタネの製造に使われている金型(出所:日産自動車)
新型カキノタネの製造に使われている金型(出所:日産自動車)
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 「これは大変なことになったぞ」と頭を抱えたのですが、プロジェクトの参加メンバーにたまたま、コンピューターでのシミュレーション手法の構築を本業とするメンバーがいました。彼女に生地の収縮をシミュレーションする方法を開発してもらい、クルマに見える焼き上がりになるよう抜く形を決めていくというアイデアが出てきました。もちろんこれまで米粉の生地を扱ったことなどありませんでしたから、現物の縮み量を測定してシミュレーションのためのパラメーターを決めるところから作業しました。

 このシミュレーションのおかげで、1車種あたり3回ぐらい抜き型を試作すれば最終形状までたどり着けるようになりました。形状を安定させるために生地の水分量も管理して、焼くときの縮み方がバラつかないようにしています。もし、型を変えて抜いては焼いてと試行錯誤を23車種1つひとつに実行して形状を決めていたら、と考えると気が遠くなります。