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 恵まれた環境よりも厳しい状況でこそ人間は力を発揮する――。大ヒットスマホゲーム「ポケモンGO」の生みの親である米ナイアンティックのジョン・ハンケ氏CEO(最高経営責任者)はこう考えて行動し、世界にインパクトを与えてきた。経営者としてどのように従業員を鼓舞しまとめ上げているのか。ハンケ流リーダー論。

(聞き手は戸川 尚樹=日経 xTECH IT 編集長、編集は矢口 竜太郎=日経 xTECH)

トップであるハンケさんはどのような点に気を払ってマネジメントしていますか。ヒット作を生み出すためのチーム作りについて教えてください。

 成功というのは、従業員1人の力でできるものではありません。様々なスキルを備えた従業員個々の力を結集させることで、成し遂げられる。

米ナイアンティック CEO ジョン・ハンケ氏
米ナイアンティック CEO ジョン・ハンケ氏
1994年に米国政府機関を退職し、カリフォルニア大学バークレー校でMBA(経営学修士)を取得。2000年に米キーホールを創業。「Google Earth」の前身となる地図情報サービスを開発。2004年にキーホールが米グーグルに買収されたのを機に、「Google Maps」や「Google Earth」などを手掛ける同社地図部門の責任者を務めた。2011年、グーグルの社内ベンチャーとしてナイアンティックを設立。2015年に独立し、現職。同社が開発・運営しているスマホゲーム「ポケモンGO」は全世界で8億ダウンロードを記録し、社会現象になった。(撮影:陶山 勉、以下同じ)
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 ですから、「ナイアンティックは様々な能力を持つ従業員が集まっているからこそ成功できる」ということを従業員全員が感じられるようにすることに、気を配ってマネジメントしています。当社にはアーティスト、デザイナー、エンジニア、マーケターなど様々な役割があり、個々にその力を発揮してもらわねばなりません。

 「スターは私」。こう社員1人ひとりが思って仕事を進められるような環境を整えること。これが現代のCEO(最高経営責任者)の重要な役目だと考えています。

そうした経営哲学を、部下の良さを引きだす「コンティニュアス・プル」という言葉で表現されていますが、実践するのは容易ではないと思います。

 はい。コンティニュアス・プルは難しい取り組みです。人の能力を引き出すというのは、もちろん容易なことではありません。ただし有効なやり方はあります。

 従業員が心の底から成し遂げたいと思えるようなミッションを掲げること。これです。それに関係するエピソードを紹介しましょう。

 キーホールを立ち上げた頃の話です。MBA(経営学修士)を取得した私は、どのようにして投資家を満足させられるかを優先していて、従業員全員が共感するような使命を掲げて舵取りをしていたとはいえない状況でした。

 その後、キーホールは米グーグルに買収され、地図情報サービスである「Google Earth」や「Google Maps」を統括する部門として再出発しました。この時期に、私の経営哲学を変えるような転機が訪れました。2005年に米国南東部を襲った大型ハリケーン・カトリーナです。

 ハリーケーンで道路や橋などが崩壊してしまったため、災害前に作成した地図情報が役に立たなくなりました。そのためレスキュー隊員は、地図のない状況での救助活動を強いられていたのです。

 我々は地図データを作るプロです。何か救助活動に役立つことはできないかと考えていたところ、我々のチームが休日を返上し、最新の衛星写真データを活用するなどして急ピッチで地図データをアップデートしたのです。私や誰かの指示ではなく、メンバーは自発的に動きました。