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 機械工具卸売業のトラスコ中山は、「在庫は悪」という考えの真逆を行く在庫戦略で成長を遂げている。約3000社の製品を取りそろえて即納するという他社にはないサービスが多くの顧客を惹きつける。「在庫は成長のエネルギー」と力説する代表取締役社長の中山哲也氏に話を聞いた。(聞き手は岩野 恵、高市清治、中山 力)

トラスコ中山代表取締役社長の中山哲也氏
トラスコ中山代表取締役社長の中山哲也氏
(写真:加藤康)
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 生産現場で必要な商品をすぐに届けられるよう、幅広い商品をとにかく置いて、置いて、置きまくろう。そういう方針で会社を経営しています。現在、在庫として持つ商品は約50万アイテムあります。50万アイテムというのは半端ではない数字だと自負しています。商品を買う側からすると、トラスコとつながるだけで、50万アイテムの商品を即納してもらえる。こんなに便利な会社は他にありません。

 我々の在庫戦略は、マーケティング用語の「ロングテール」に該当すると言われることがあります。直訳すると長いしっぽですね。例えば、作業用の安全靴のサイズはメーカーの基本ラインアップとして21.5cmから30cm程度まで存在します。ただ21.5cmや30cmの安全靴はあまり売れないので、24cmから27cmくらいまでの売れ筋を在庫として用意するのが普通です。この場合、ロングテールとは、最小サイズから最大サイズまで、全部置くということです。販売機会の少ないニッチな商品も幅広くそろえています。

 ニッチな商品は売り上げが少ないから効率が悪いと思うのは早計で、商品を置いているとだんだん売れるようになるものです。私はメーカーが造っている以上、必ずその商品を必要とする人がいると信じて、在庫を置いています。するとニッチな商品を買いたい人々から、「トラスコに言えばなんとか商品の入手が間に合うぞ」と認識され、だんだん売れ行きが伸びていくのです。もちろん全ての商品が売れ筋になるわけではありませんが、枯れ木も山の賑わいで、それもトラスコの魅力の1つかなと思っています。

 メーカーについても色々な選択肢を用意しています。例えば、同じようなサイズ・機能を持つドライバーを製造するメーカーであれば、大体20社の商品を置いています。その結果、当社の取引先は約3000社にもなります。普通の卸売会社は20社の内、よく売れる2、3社の商品を置き、残りは取り寄せにするものです。