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我が社目線のKPIはおかしい

 逆に私からすると在庫を持たないデメリットは圧倒的に大きい。多くの経営者が在庫を最小限に抑えようとするのは、「在庫はできるだけ少なくすべきだ」という教科書的な考えをみんなが忠実に実行しているだけではないでしょうか。在庫は少ないほうが良いというのは売る側の目線でしかないと思います。買う側の立場からしたら品ぞろえの悪い店は嫌でしょう。

 在庫を語る指標として在庫回転率がよく使われます。でもお客さんから見れば在庫が何回転しているか、なんてことには全く興味もなければ意味のない数字です。そんな数字にこだわること自体がおかしいのではないでしょうか。多くの会社がKPI(重要業績評価指標)とする自己資本利益率(ROE)や総資産利益率(ROA)も全て「我が社目線」です。これらを高めても、お客さんへのサービスの質が向上するわけではありません。

 だから当社では、顧客からの注文に対し、どれだけ当社の在庫から出荷できたかを表す「在庫出荷率」という独自指標をKPIとしています。今の在庫出荷率は91%程度。在庫から出荷できると基本的に受注当日、もしくは翌朝に納品できるので、この指標はお客さんの満足度に直結します。

トラスコ中山の倉庫に導入した自走型搬送ロボット「Butler(バトラー)」
トラスコ中山の倉庫に導入した自走型搬送ロボット「Butler(バトラー)」
大量の在庫からの迅速な出荷を支えている。(出所:トラスコ中山)
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 さらに、受注から納品までのリードタイムをもっと短縮しようと考えています。今のリードタイムは平均で約20時間です。今後、このリードタイムを縮めていくことなどをKPIにします。ちゃんと数値化すると問題点も解決法も見えてくるものです。

 リードタイム短縮の方法の1つとして、人工知能(AI)などを活用した類似品検索の開発に力を入れていこうと思っています。現在、注文から1時間で即納する商品がある一方で、欠品による取り寄せがリードタイムの平均を伸ばす原因となっています。欠品は防がなくてはいけませんが、どうしても物理的に避けられないこともあります。それならば、注文した商品がない場合、代わりにほぼ同じ機能を持った別商品やハイエンドの商品を、類似検索機能を使って提案できるようにしたいのです。

 配達のルートもまだ見直せると思っています。例えば、京都駅を出発し、京都御所周辺を1周して戻ってくるとき、右回り、左回り、どちらで行くと早いか知っていますか。これは、左回りなのです。交差点では右折が混むので、左折で行く方が時間短縮になります。我々の配送ルートもそういったところまで突き詰めるべきだと思います。