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 出資比率にゆがみのあった日産自動車とフランスRenault(ルノー)が、提携関係の見直しで合意した。日仏連合(アライアンス)が誕生した1999年当初から動向を分析してきたナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリストの中西孝樹氏は、今回の新たな船出について「日産側の目線だけでは分かりにくい。ルノーの考えを理解することが重要」と語る。アライアンスが機能しなかった根源を振り返りつつ、今後の展開を探る。(聞き手は久米秀尚、本多倖基)

ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリストの中西孝樹氏
ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリストの中西孝樹氏
(写真:日経Automotive)
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ルノーが保有する日産株約43%を15%まで引き下げ、相互に15%ずつ出資する形にする。狙いはどこにあるのか。

 大きな目的は、Carlos Ghosn(カルロス・ゴーン)氏のレガシー(以下、ゴーンの遺産)を取り除くことだ。アライアンスはなぜ機能してこなかったのか。2023年2月6日に英ロンドンで開いた共同会見で、ルノーグループCEO(最高経営責任者)のLuca de Meo(ルカ・デメオ)氏は「終わりの始まりではない。始まってもいない」と語っている。

 もっと印象的だったのは、同氏の「43%から15%への引き下げではなく、(日産に)影響を与えられない0%から15%への引き上げだ」という言葉だ。実際、ルノーは約43%もの日産株を持っていても、何もコントロールできていなかった。

 コントロールできない理由は、日産とルノーが結んだ「改定アライアンス基本合意書(RAMA)」にある。2015年の第3次改定でゴーン氏は、「ルノーやフランス政府は日産の経営に介入しない」と決めた。そして、これを破れば「日産独自の判断でルノー株を買い増せる」という強い条件をつくった注1)。日産もルノー株を15%保有しているが、(フランス法による制限で)議決権がない。

注1)日産がルノーへの出資比率を25%以上に高めると、日本の会社法上、ルノーが持つ日産の議決権が無効になる。

 だからゼロとゼロの関係で運用されていたのだ。こんな関係ではうまくいくはずがない。会見でデメオ氏が「黄色と赤の主張の中でオレンジになってしまった」と言っていたように、適切な判断を下せる状態ではなかった。こうした不健全な状態では、お互いにとって足かせになり、潰れていく。これが1つ目のゴーンの遺産だ。

共同会見で説明するルノーグループCEOのルカ・デメオ氏(左)
共同会見で説明するルノーグループCEOのルカ・デメオ氏(左)
(写真:日産自動車)
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共同会見ではIP(知的財産)に関する説明にも多くの時間を割いた。

 このIPの問題こそ、2つ目のゴーンの遺産だ。ゴーン氏の頭の中には、日産とルノーの経営統合があったはずだ。だから、両社のIPを全く色分けせず、アライアンスのものだからお互いに自由に使用できるとした。多くのIPを持っているのは日産で、得をしたのはルノーだ。「共同特許」という形だが、ルノーは使う一方だった。

 この状態を整理しないと、お互いに新しいパートナーと提携できない。その足かせが表面化したのが、2019年にあったルノーと欧米FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の統合交渉だった。破談に終わった大きな理由がIPの問題だ。

 ルノーとFCAが共同開発を進める中で、日産のIPが使われる可能性がある。このときに日産側がIPの使用に「待った」をかけると開発は進まなくなる。こうした問題が顕在化し、ルノーはFCAとの統合というカードを失った。あの瞬間から、ルノーは日産との関係を何とかしないと企業として存続できないという感覚が強くなったのだろう。

日産社長兼CEOの内田誠氏も会見で、「変革のなかでIPをどう活用するか。何度も交渉してきた」と述べている。

 日産にとっても、絡まっていたIPを解きほぐすことが必要十分条件だった。IPを整理しないと、同社のコア市場である中国や米国で新しいパートナーと組みづらい。この点で、今回の交渉で白黒付けられたのは大きな進展といえる。

 ただ、交渉はもめた。