2023年1月1日、レゾナック・ホールディングス(以下、レゾナック)が発足した。昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が経営統合して再スタートを切った会社だ。新会社を率いる髙橋秀仁社長兼最高経営責任者(CEO、以下髙橋社長)は「超選択と集中」のカードを切った。総合化学メーカーの幕を下ろし、世界トップクラスの機能性化学メーカーを目指す。なぜ、既存の事業を大胆に切り捨ててまで超選択と集中を断行するのか。それで何を目指すのか。そして、摩擦や軋轢(あつれき)はなかったのか。多くの日本企業が抱くであろう疑問をストレートに髙橋社長にぶつけた。その後編(聞き手は、近岡 裕=日経クロステック、高市 清治=日経クロステック/日経ものづくり)。
一本足打法でも「問題ない」
半導体・電子材料事業に集中します。いわゆる「一本足打法」になることに対して経営リスクはありませんか。
髙橋社長:ここから先10年は、半導体は一本足打法でも全く問題ないと思っている。一本足とは出口の話で、実は技術のベースはとてもたくさんあるからだ。化学メーカーの面白いところは、技術を持っていれば出る所を選べる点だ。今は半導体が良い出口だから、みんなで技術を集中させて、そこに出ていこうとしている。
例えば、10年後に半導体が陰ってきて、次に何か他のものがあるというのを5年後に予見できたとしたら、その時点で研究開発のリソースをそちらに振る。一本足打法にならないためには、次の足は何かというのを見極める力と、そこに出ていくだけの技術力を根底に持っておく必要がある。レゾナックはそれらを持っている。
アプリケーションはいくらでもあるということですね。
髙橋社長:そうだ。アプリケーションはいくらでも考えられるし、社内にはそれを形にする技術の塊がある。今のアプリケーションは半導体だが、例えばモビリティー分野に大きな変革があり、そこにある樹脂が必要だとか、あるアルミニウム合金の需要があるといった場合は、そこに出て行けばよい。
切り離したアルミ缶事業が売却先で強くなった
改めて「超選択と集中」に関して伺います。昭和電工は歴史の古い会社です。しがらみがあったり、既得権益にしがみつこうとする人がいたりしたのではありませんか。
髙橋社長:そうした抵抗には遭っていないと自分は思っている。もしかしたら事業の売却などについては抵抗した人がいたのかもしれない。だが、売却という意思決定に対してOBの反対に遭ったり歴代社長から反対されたりしたことは1度もない。身の引き方が皆、きれいなのだ。というのも、昭和電工では社長を降りて会長になったら経営会議に出てこない。かつ、執行に関することは基本的に口を出さない。代表取締役であるのに、だ。
森川さん(前社長の森川宏平氏)もそうだが、市川さん(2代前の社長の市川秀夫氏)も社長を辞めたら経営会議には出てこなかった。実は、「前の人がそうしてくれて、とても助かった」と市川さんは言っていた。その前の人も同じことを言っていたので、これはこの会社の伝統となっているのだと思う。
しかし、超選択と集中によって切られる事業や冷遇される事業があると、そこに摩擦や軋轢が生じるのは珍しくありません。
髙橋社長:当社は過去2年で事業を8つ売却した。「寂しい」という人はいる。アルミ缶事業やアルミ圧延品事業を売る時は、一代前の管掌役員がみんなを説得したり作業したりしてまとめてくれた。軋轢が全くなくて皆がハッピーかといえば、そんなことは決してない。しかし最後は、事業部長の2人が「いつか髙橋と森川を見返してやろう」と言って出ていったというから、そこは良かったなと思う。
結局、ベストオーナーに事業を持ってもらうのが1番幸せなのだ。アルミ缶事業は業界再編が絶対に必要だった。なぜかというと、どういうわけだかビールメーカーが強くてアルミ缶は買いたたかれていたからだ。あれほど利幅の薄い加工業なのに地金のリスクまで取らされていて、それはおかしいだろうと。それなのに、メーカーと懇親会を開いている。「そんなところで乾杯している場合じゃないだろう」と私は怒っていた。そうした悪しき慣習を打ち破るために交渉を続けてもらい、交渉が固まって米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメント(以下、アポロ)に売った。その後、三菱マテリアルもアルミ缶事業をアポロに売った。そこで足し算されて(=売り上げ規模が大きくなって)バーゲニング・パワー(交渉力)が増した。あれは良い事業になる。
アルミ缶事業の規模が大きくなり、これまでとは違って買いたたかれることがなくなるわけですね。
髙橋社長:そうだ。交渉力が大きくなる。アルミ缶は輸入できないわけだから、造らないと言われれば困るのはビールメーカーだ。これまでは「造りません」と言ったとしても、「それなら他で買うから構わない」と言われてしまう可能性が大きかったが、今は買うところが減ってしまったから、それができない。
適正価格への変化といえますね。
髙橋社長:その通りだ。