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 日本の半導体産業の凋落は著しい。人材も海外に流出し、かつて栄華を誇った半導体微細加工技術でも、海外企業に遠く及ばない。日本の半導体産業の再興に研究開発の立場から取り組む東京大学 大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 教授の黒田忠広氏に日本の勝ち筋を聞いた。(聞き手=中道 理、小島郁太郎、久保田龍之介)

東京大学 大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 教授の黒田忠広氏
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東京大学 大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 教授の黒田忠広氏
(撮影:加藤 康)

 半導体分野は産業全体でいえば製造業ですので、川中に当たります。川上に素材装置、川中に製造設計、川下にデジタル産業があるというわけです。そんななかで不幸な出来事が重なり、半導体不足になった。

 経済安全保障などを考えたとき、日本にとって現在もっとも不足しているのが、国内での半導体製造基盤です。そこで緊急措置として、製造基盤をとりあえず確保するために、台湾TSMC(台湾積体電路製造)を誘致できました。同社が2021年に設立した「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」から始まり、24年に稼働開始予定の新工場で22/28nmプロセスの半導体を生産できるようになります。このような工場がないと立ち行かないため、大きな成果です。

 「なぜいまさら22/28nmなのか」と批判する人がいます。最先端は5/7nmだろうと。ところが実際には、現状でもっとも必要とされるボリュームゾーンは22/28nmです。このボリュームゾーンは年々変わっていく。数年後には18nmや10nmに微細化するでしょう。新工場にはこの微細化に対応するプログラムもあるようです。

 ある工場を設立することで、周囲で関連する投資が続く。この随伴投資の動きは日本の半導体産業にとって、大きな反転のきっかけになります。一方で、このTSMCの新工場をフル活用することで、日本のデジタル産業の競争力につながらないと意味がないわけです。わずか3年間くらい盛り上がって、徐々につくられる製品がなくなるのでは、国の税金を使った意味がない。さらに言えば、この工場が、海外向けの製品ばかりをつくるようになると無意味です。

 日本の政策としては、まず川中にあたる半導体工場の誘致で始まりました。今後は川上と川下の政策が重要になると考えています。

 川上としては、日本が強みを持つ製造装置や素材分野が、10年後も強さを保ち続けるための政策。川下としては、半導体から受ける恩恵を、デジタル産業の力に変えていくという政策です。

 この政策で、技術的に重要な要素が2点あります。色でいえば「緑」と「赤」。「緑」が、半導体のエネルギー効率10倍。「赤」が、半導体の開発効率10倍を意味します。

 緑から説明しましょう。データセンター(DC)の電力だけでも、10年後には10倍になります。20年後になるとさらに100倍、30年後には1000倍と、ものすごい勢いで増えていく。これは持続可能なシナリオでないので、電力を減らす手段を取ることが最優先になります。