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 スクウェア・エニックス(スクエニ)とオムロンという異色のコンビが、2020年初頭に米国で開催された「CES 2020」を湧かせた。対戦相手のスキルや感情を分析し、モチベーションが高まるように調節して打ち合える卓球ロボットが、来場者の心をわしづかみにしたのだ。スクエニのゲーム向けAI(人工知能)を、オムロンの卓球ロボットに搭載した。

 スクエニが強みとする事業は、ゲームを中心とする「デジタルエンタテインメント」で、ゲーム開発を通してゲームAI技術を開発してきた。スクウェア・エニックス テクノロジー推進部リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏に、ゲーム向けのAI(ゲームAI)とは何か、どのように人間と社会の未来に関わってくるのかなどを聞いた。(聞き手=野々村洸)

スクウェア・エニックステクノロジー推進部リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏
スクウェア・エニックステクノロジー推進部リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏
(写真:日経クロステック)
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ゲームAIという技術は、他のAIと比較してどのような点で優位性があるのでしょうか。

三宅氏:現在の基本となるゲームAIはロボティクスの世界で発達していたAIを参考に、1995年ごろから開発が進んだ技術です。ただ、仮想世界のゲームはその中での環境データの収集が現実世界のロボットより容易で、不要なノイズが入らないため、急速に発展していきました。

 他のAIへの優位性も「仮想世界で発展した技術」であることと言えます。迷路(ダンジョン)を潜る、魔法を放つなど現実を超えた高度なシミュレーションが可能な世界で開発が続けられてきました。そして今、培ってきた技術をロボットへの適用などを通じ、現実世界に打ち出そうと試みています。

そもそもゲームAIとは何でしょうか。

三宅氏:ゲームAIはゲームシステムをコントロールするAI全体を指します。基本的にゲームAIは3つのAIが連携して成り立っています。仲間・村人・モンスターなどのキャラクターの頭脳である「キャラクターAI」、地形を解析してキャラクターの空間認識を支援する「ナビゲーションAI」、そしてプレーヤーの心理や場面の状況を推測してゲームの流れに介入する「メタAI」です。

ゲームAIの概念図
ゲームAIの概念図
(出所:スクウェア・エニックス)
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 メタAIは単純に言うと、ゲーム世界の神様のようなものです。例えば、ゲームプレーヤーが操作するキャラクターが想定以上に激しく行動していたら、モンスターの出現頻度を下げるような調整などを担います。このキャラクターAI、ナビゲーションAI、メタAIがプレーヤーのゲーム体験を支えています。

 実は1980年代は、ゲームAIと言えばメタAIだけという状況でした。しかし1990年代、平面的な2D(2次元)ゲームから奥行きのある3D(3次元)ゲームの出現で、メタAI単体だとプレーヤーを満足させられるコンテンツを生み出しづらくなりました。

 平面空間の2Dゲームであれば、正面からモンスターを向かわせれば、ゲームプレーヤーのキャラクターと出会うように調整できました。それが立体空間の3Dやオープンワールドのゲームになると、モンスターとキャラクターが上手く遭遇しなくなってしまうなどの問題が発生しました。例えばモンスターが障害物を回り込こまないなどの挙動です。そこで現実感がある世界を創造するため、キャラクターAIやナビゲーションAIなどの技術が発展していくようになりました。

†オープンワールド=ゲーム内でマップを自由に動き回れること。