GAFAなどの巨大IT企業が専用チップの自社開発を加速させている。汎用(はんよう)チップは性能に限界が見えてきているのに対し、専用チップのエネルギー効率が格段に高いからだ。一方で、資金や人材の乏しい日本企業のほとんどはGAFAのような自社開発が難しい。この状況を打開するため、東京大学 大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の黒田忠広氏が提唱するのが、「ソフトウエアのように設計できる非ノイマン型アーキテクチャー」である。その狙いを同氏に聞いた。(聞き手=中道 理、小島郁太郎、久保田龍之介)
「ソフトウエアのようなハードウエア設計」で革命へ
半導体のエネルギー効率を高めるためには、3つの手法がありました。すなわち、(1)汎用チップから専用チップへの転換、(2)半導体プロセスの微細化や3D(3次元)実装、(3)「布線論理」*のような非ノイマン型のアーキテクチャーです。
*「布線論理(ワイヤードロジック)」は、配線でロジックを作る手法。エネルギー効率が高いという利点がある。ノイマン型以前の時代では主流だった。
一方で、エネルギー効率10倍を目指すとなると、実は設計上の課題が2点あります。まず、どうやって専用チップを安価に、素早く製造するのかという点。そして、巨大な回路をどうやって布線論理に落とし込むのかという点です。そこであたかもソフトウエアのコードを書くようにハードウエア設計できる「高位合成」が出てきます。前回お話ししたことですが、色でいえば省電力の「緑」に対して「赤」、つまりアジャイルの部分です。
2021年に開催された半導体の国際学会「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2021」で、台湾TSMC(台湾積体電路製造)の劉徳音(マーク・リュウ)董事長が基調講演しました。その最後の締めくくりの言葉が、「半導体チップの設計は、理想的にはソフトウエアのコードを書くくらい簡単であるべきだ。そうなれば世界に革命が起こる」というものでした。その時のスライドには、「少数から多数へ(from a few to many)」と書いてあった。つまり、米Apple(アップル)や米Tesla(テスラ)のようなTSMCの少数の大口顧客だけでなく、多くの人がチップを作れるようになればイノベーションが起こるというわけです。
これを英語圏では「半導体の民主化(democratize access to silicon technology)」と呼んでいます。要するに、半導体技術を活用できる人を1桁、2桁増やすという意味です。ソフトウエア開発者と比べると、ハードウエア設計者の人口は桁違いに少ない現状がありますが、この状況を変えられるかもしれない。
ソフトウエアの良さは、まず世に出してみて、ユーザーが見つけた欠点を基に改良していくモデルが可能であることです。ハードウエアは逆で、作るのに1年間、100人、100億円がかかるのに、出した時はもう「完成品」なのです。そこから一歩も進歩できない。これがハードウエアとソフトウエアが融合するのが難しかったところです。
実は布線論理型のFPGA
そこで、更新可能なハードウエアであるFPGA(Field Programmable Gate Array)を活用します。実は、FPGAは布線論理型アーキテクチャーなのです。
例えば、FPGAを日本の半導体工場を使って3nmプロセスで製造します。そのFPGAをソフトウエア的にプログラムし、自分専用のハードウエアを作ります。このハードウエアを1週間ごとにインターネットにつなげてアップデートしていく。そういう使い方が増えるのではないでしょうか。
さらにいえば、FPGAでなくてFPNA(Field Programmable ‘Neuron’ Array)を実現するというのが私の頭の中の構想です。