燃料電池車(FCV)を“普通のクルマ”にする――。トヨタ自動車が2020年末に市場投入する予定の次期FCV「MIRAI(ミライ)」に課せられた最大の使命だ(図1)。
トヨタが初代MIRAIを投入したのは2014年12月。最も“普通のクルマ”とかけ離れていたのは、「売れば売るほど赤字になる」(トヨタの関係者)ほど燃料電池(FC)システムのコストが高いことだ。車両の販売価格は、補助金の適用後で約500万円。発売から5年以上たつこの高級車の累計販売台数は、世界で1万台程度にとどまる。
同社は2020年ごろ以降にFCVを世界で年間3万台以上販売するという目標を掲げる。その目標を達成する上でカギを握る次期MIRAIは、システムコストを初代MIRAIから1/2にすることを目指す。

次期MIRAIの開発は順調か。チーフエンジニアを務めるトヨタの田中義和氏(Mid-size Vehicle Company MS製品企画ZFチーフエンジニア)に状況を聞いた。同氏は初代MIRAIでもチーフエンジニアを務めていた。
初代MIRAIの発売から6年で、初めて全面改良を実施する。開発で最もこだわっている点はどこか。
“普通のクルマ”として消費者に選んでもらえるか。ここに一番こだわっている。「燃料電池だから」だけでは数(台数)は出ない。燃料電池という技術でこのクルマを選んでくれる人も少数はいるかもしれないが、広く支持されることを目指した。だから、FCユニットのレイアウトやプラットフォームを含め、ゼロから見直した。
“普通”の中身はいくつかあり、1つは航続距離だ。初代MIRAIに比べて航続距離を3割増しにすることを目標に開発している。第2が居住性で、特に後席を改良した。(初代は4人乗りだったが)5人乗りにする。足元も広くなっている(図2)。
第3が見た目で、かっこいいクルマを目指した。消費者が買いたいと思ってもらえるような外観に仕上げた。(「東京モーターショー2019」で披露した)コンセプト車「MIRAI Concept」は次期MIRAIの開発最終段階のモデルで、外観は量産モデルでもあまり変更することはないだろう。