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中小の部品メーカー含めた裾野まで

 MBD推進センターの参画企業はどんどん増やしたいと思っています。既に参加しているサプライヤーは、MBDの普及が自社の利益になると感じているはずです。しかし、現時点で参加してないTier2、3の中小部品メーカーまでを引き込んでいきたい。自動車産業の裾野はとても広いですから。そこまでつながらないと本当のメリットが出てこない可能性があります。

 では、どうやって引き込んでいくのか。基本的にMBDの効能を広く伝えていきます。そうした役割も、MBD推進センターが担っていこうと考えています。

 実際、自動車メーカーとTier1との間でのトライアルはいくつか実施しました。例えば、トヨタ自動車とデンソー、アイシンなどが、お互いにルールを合わせてMBDで検討し、大きな効果が得られたという事例があります。

 マツダもインスツルメントパネル(インパネ)のメーカーであるダイキョーニシカワとトライアルを実施しました。インパネには、さまざまな部品メーカーの装置を組み込んでいます。その状況の中で、衝撃解析などの検証をインパネメーカーが実施しなくてはなりません。それには、部品メーカーのモデルが必要になります。そこでマツダがハブになって、うまくシミュレーションできるようにサポートしました。

 こうしたトライアルを紹介するだけでなく、中小部品メーカー自身がトライアルして実感できるようになってほしいと思っています。具体的な方策は決まっていませんが、高額な投資をせずに済むようにしたい。中小部品メーカーが実際に困っている課題を解決できると分かれば、広がっていくのではないでしょうか。

ツールベンダーに期待

 MBDの裾野を広げるためには、活用効果を実感できる事例を増やすのに加えて、ツールの低価格化が不可欠だと思っています。現状、多くのツールのライセンス料は中小企業にとって敷居が高い。1ライセンス500万円といった額では、なかなか手を出せません。しかし、実際には全ての機能が必要とは限りません。機能を少し絞って低価格になればと思っています。

 現時点でもMBD推進センターには多くのツールベンダーが参画しています。MBDの普及は必ず彼らのビジネスになるのですから。その活力を利用させてもらいます。どんな教育をするか、どう知らせるかといったアイデアを出してもらうのです。

 最終的なゴールは、あたかも1つの会社であるかのように、全ての研究から開発がモデルでつながっている状態を作ることです。マツダでは、同じ会社内でもそういう状態にするまで十数年もかかりました。しかし、抵抗していた人も、本気になったら先導役になるぐらい一生懸命にやりだします。無理強いしてもダメです。必要性があってうまくいったときには、放っておいてもどんどんやりますから。そういう状態にできたら本物です。

 今後、労働人口は確実に減っていきます。現在は人に頼っている部分でも、よく聞いてみるとモデル化できて、シミュレーションで検討できるものがあります。それを検討すべきなのです。そこを知っていただきたい。できないことはもちろんあるでしょうが、かなりの部分ができるのではないかと思っています。

21年9月に開催した記者発表会の様子。下段左から2番めがステアリングコミッティ委員長を務めるマツダシニアイノベーションフェローの人見光夫氏。(出所:MBD推進センター)
21年9月に開催した記者発表会の様子。下段左から2番めがステアリングコミッティ委員長を務めるマツダシニアイノベーションフェローの人見光夫氏。(出所:MBD推進センター)
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人見 光夫(ひとみ・みつお)
MBD推進センター ステアリングコミッティ委員長 マツダ シニアイノベーションフェロー
1954年生まれ。岡山県出身。1979年東大院修了後、東洋工業(現マツダ)に入社。一貫してエンジン開発に携わり、2000年パワートレイン先行開発部長。2011年執行役員、2014年常務執行役員。2017年常務執行役員・シニア技術開発フェロー、2019年からシニアイノベーションフェロー。2021年7月設立のMBD推進センターではステアリングコミッティ委員長に就任した。