日本航空(JAL)は50年以上使い続けた旅客系の基幹システム「JALCOM(ジャルコム)」を全面刷新し、世界で使われている航空業界向けのクラウドサービスを導入した。800億円を投じた7年がかりのプロジェクトにおける苦労はどこにあり、経営トップとしてどう舵取りしたのか。社長の座に未練はないのか。システム刷新を決断した植木義晴会長に、3月末の社長退任直前に単独インタビューした。
2017年10月、新システムの稼働直前のことです。中間決算説明会で日経コンピュータの記者が刷新を目前にした心境について植木さんに質問したところ、「不安よりもワクワク感の方が強い」答えました。経営トップはシステムのことになると慎重に話すケースが多いので驚きました。
僕が正直すぎるんじゃないかな。普通、経営者は失敗した時のことを考えたらそんなことはきっと言わないんですよね。謙虚に、常に前向きにみたいな話をしている方が、何かあったときの受けはいい。
それは分かります。分かるけど、僕はそういう性格じゃないんだよ。自ら危険ぎりぎりのところに飛び込むのが好きですよね。自分でも分かっている。
その代わりそれだけの効果は必ず得る。そこに行かないと得られない効果ってあるんですよ。危険領域ぎりぎりまで行かないと。それを意識して言ったわけじゃないけど、本当にあのときウキウキしていた。
本当ですか。
だって、くよくよしたってしょうがない。僕はITの詳細が分からないし、任せる人は僕が決めたし、彼がしっかりやっているし、経過報告も受けているし。あとは待つしかないです。どうせ待つならじくじく待たずにウキウキと待っていた方が、成功する可能性は高まりますよ。
みんなに「あなたはおかしい」と言われるんだけど、稼働日の11月16日もその前日も全く心配は無かったです。メールを待っていたら切り替え前日の夕方に「第1弾成功、スムーズに入りました」と連絡がありました。
どんな気持ちでしたか。
当たり前だろうと。「それだけのことをやっているよ、お前は」と思ったけどね。その後、続々と「これもできた」と来ました。
「どうぞなんでもいらっしゃい」と思って飛ぶ
肝が据わっていますね。
私、飛行機を操縦してきたじゃないですか。なんぼ想定しても想定外は起きる。ただ、1つでも想定外のことを地上でつぶしておくのがまずパイロットの仕事なんです。だからあらゆることを考えて、それでも上空に行ったら想定外のトラブルが発生する。そのときに何で対応するかって、アドリブです。
マニュアルに書いてあるようなトラブルばっかりではなく、圧倒的にそのマニュアルには載っていないトラブルが発生する確率のほうが多いわけです。そのときに自分の全能を使って今までため込んだものを組み合わせて必ず解を見つけ出す。