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 さまざまなセンサーや機器を搭載し、ソフトウエアアップデートで更新し続ける。まるで米Tesla(テスラ)の電気自動車(EV)のような住宅づくりに挑んでいるのが、シリコンバレーのスタートアップ企業HOMMAだ。ソニーで新規事業などを手掛け、楽天の幹部だった本間毅氏が2016年に創業した。これまで約3400万米ドルの投資を獲得し、20年に戸建てを、22年に新たな集合住宅を建てた。順調に活動を続ける本間氏に、同社が手掛ける住宅の特徴や今後の事業戦略になどについて聞いた。(聞き手は根津 禎=シリコンバレー支局)

本間 毅(ほんま・たけし)氏
本間 毅(ほんま・たけし)氏
1974年鳥取生まれ。中央大学在学中の1997年に、Web制作・開発を手がける「イエルネット」を設立。ピーアイエム(後にヤフージャパンに売却)の設立にも関わる。2003年ソニーに入社し、ネット系事業戦略部門やリテール系新規事業の開発を経て、2008年5月から米西海岸に赴任。電子書籍事業の事業戦略に従事した後に、楽天に入社。2012年2月に同社執行役員に就任し、デジタルコンテンツのグローバル事業戦略を担当した。退任後、2016年5月にシリコンバレーでHOMMAを創業し、現職。米国カリフォルニア州サウスサンノゼ在住。(撮影:日経クロステック)
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どういった経緯で創業したのですか。

 実は、起業したのはこれで2社目です。大学生のときに、仲間と4人でWebサイトの制作や運営などを行う会社を立ち上げました。いわゆる「ネットバブル」の時代です。それから約8年間経営した後、他社に譲渡しました。その後、2003年からソニーで、2012年から楽天の米国法人で働きました。ソニー時代の08年から米国西海岸(ベイエリア)に赴任してPSN(プレイステーション ネットワーク)の立ち上げに関わった後、米国での電子書籍事業で事業戦略を担当しました。その後、この経験が買われて、電子書籍事業を拡大しようとしていた楽天から声がかかり、ベイエリアにいたまま転職しました。そのとき、実は電子書籍事業に携わるのは気が進みませんでした。それでも楽天に入ったのは、社用語を英語にし、本気で海外展開をする姿に感銘を受けたからです。

 米国に来て痛感したのが、日本企業の存在感の低さ。しかも日本は少子高齢化で市場は小さくなり、存在感が薄れる一方です。だからこそもっと海外に出ないといけない。そんな問題意識をずっと持っていたので、楽天の海外進出を手伝いたいと思いました。楽天時代、米国のさまざまなスタートアップ企業と付き合うようになり、彼らの勢いに圧倒されました。学生時代に創業しましたが、シリコンバレーのスタートアップ企業は、ライフスタイルや社会まで変えてしまおうという気概を持っています。

 そんな彼らの活動をすばらしいと思っていましたが、起業するつもりはありませんでした。考えが変わったのは、今のHOMMAのような事業モデルのアイデアが浮かんだからです。

 シリコンバレーはハイテクの地域でありながら、多くの家が旧態依然としていて、使いにくい。これは米国全体の話でもあります。「Google Nest」のようなスマートホーム向けデバイスがありますが、根本から家を大きく変革するものではありません。そもそも、日本に比べて、米国の住宅産業はあまり工業化されていない。例えば、キッチンなどの内装は、標準品があまりなく、家に合わせてカスタマイズする場合が多く、時間もコストもかかります。そこで、技術と家をうまく融合させることができれば、きっと新しいことができるのではないか。そう思いHOMMAを創業しました。

思いついた事業モデルというのは?

 デザインや収納、間取りに加えて、IoT技術を導入することで、家そのものを変えようと思いました。家を建てた後も、ソフトウエアアップデートを通じて常時更新していく。まるでテスラ車のような家づくりを目指しました。宅内のセンサーが検知した居住者の動きや所作などのデータをハブ(ゲートウエイ)で集めて分析し、その結果に応じて、ハブが宅内のさまざまな機器を適切に制御する。このとき、どんなメーカーの、どのような機器もハブを通じて制御できるようにします。宅内の機器連携だけでなく、センサーなどで検知した住宅の状況を基に、修理や清掃、商品配送、出前といったサービスとも連携させたいと考えました。このコンセプトを我々は「スマートオーケストレーション」と呼んでいます。こうした付加価値を価格に上乗せし、周囲の住宅価格に比べて1~2割ほど高い「プレミアム」帯で販売することを目指しました。

 とはいえ、米国で家を建てようとすると、2、3年かかり、事業としてスケールしません。そこで当初、IoT住宅向けのソフトウエアを開発しようと思いました。ですが、試せる空間がないと難しいと分かり、約1年で方針を転換したわけです。やはり、ハードとソフトの垂直統合でこそ、いいものが作れる。かつて電子書籍事業に携わっていたときもそうでした。ハードウエアに関しては、工業化が進んでいる日本の住設機器メーカーとタッグを組むことにしました。例えば、パナソニックやヤマハ、アイリスオーヤマ、城東テクノといった企業です。我々は、宅内機器を制御・アップデートする仕組み、つまりソフトウエアを主に開発します。

具体的にはどんな取り組みをしてきたのでしょうか。

 まず、シリコンバレーにある築50年ほどの物件を購入し、オフィス兼ラボの「HOMMA ZERO」として改装しました。一定の成果がありましたが、やはり間取りやインフラなどが古い。そこで、次に戸建ての新築に挑みました。シリコンバレーの中心部から北西に車で1時間強のところに、新コンセプトの住宅「HOMMA ONE」を20年6月に建てました。高台にあり、サンフランシスコ湾を臨むすばらしい場所です。広さは4000平方フィート(約370m2)で、米国の中でも大きな物件に相当します。