タイヤ業界の勢力図が変わり始めている。巨体を生かして技術をかき集め、優位性を確保しようとする「ビッグ3」(ブリヂストン、フランスMichelin、米Goodyear)。依然タイヤ業界の頂点を死守するが、アジアの「新興メーカー」がそのシェアを確実に奪いつつある。そんな競争の板挟みにもがくのが、世界シェア8位の横浜ゴムだ。同社の研究開発トップである取締役常務執行役員技術統括の野呂政樹氏に、中堅タイヤメーカーの“処世術”を聞いた。
(聞き手は窪野 薫=日経クロステック)
・編集部注:記事内容は取材時点(2019年6月)の情報に基づきます。
自動車業界に合わせてタイヤ業界も動いている。
クルマ技術の変化に応じてタイヤも変わる必要がある。電気自動車(EV)になれば、内燃機関のエンジンからモーターへと原動機が移り、これまで産業を構成してきた企業とは別のプレーヤーが出現する。ただ、タイヤに関しては新規プレーヤーの参入は少なく、大きな脅威にはならないと見ている。材料配合をはじめ一朝一夕では獲得できない技術が多いからだ。
それよりも難しいのが、既存プレーヤー間でのシェアの奪い合いである。競争の激しさは増しており、正直、ピンチだと捉えている。横浜ゴムは世界シェア8位という難しい立ち位置にいる。変革への対応は体力勝負だ。ビッグ3のような上位メーカーは規模を生かして逃げ切りにかかっている。さらに、アジアの新興メーカーの成長も著しい。技術開発を一層強化していかないと、上位メーカーには引き離され、下位メーカーには差を詰められる。
一昔前に比べて、新興メーカーの技術力はかなり上がっている印象だ。価格は依然として安く、欧州の高級車メーカーでは安価なグレードに新興メーカー製のタイヤを採用する動きが目立ってきた。タイヤ業界は材料価格、物流費、人件費などコスト増の要因が多く、新興メーカーと同水準の価格を打ち出すことは難しい。別の道で差異化を図るしかない。
研究開発にも変革が必要だ。
ブリヂストンなどのビッグ3と比べると、横浜ゴムの規模は小さい。体力のあるメーカーは全方位に開発投資が可能だ。対する横浜ゴムは、分野を絞って競争力を高めていく。特に、(燃費や走行能力などで)高性能なタイヤに注力している。M&A(合併・買収)を進め、技術の基礎固めを続けている。