東芝は2007年に「環境ビジョン2050」を定め、これまで十数年にわたって環境問題に積極的に取り組んできた。環境問題への意識が世界的に高まる中、19年度に策定した中期経営計画「東芝Nextプラン」に沿って持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも力を入れる。カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の波が押し寄せる中、東芝はエネルギー事業でどのような戦略を描くのか。2021年4月14日に辞任した元同社代表執行役社長CEO(最高経営責任者)の車谷暢昭氏が、同年3月29日に語った内容をお届けする。(聞き手は吉田 勝、高市清治=日経クロステック、山田剛良=日経クロスメディア編集部、構成は小林由美)
2020年11月に、グローバルな視野に立った環境対応に関する長期ビジョン「東芝グループ環境未来ビジョン2050」を策定しました。30年度までに、グループにおける温暖化ガス排出量を19年度比で50%削減、50年度までには同80%以上削減することを目指しています。同時に、50年度に向けては、社会の温暖化ガス排出量のネットゼロ(カーボンニュートラル)化に対する貢献も宣言しています。
30年度までの温暖化ガスの排出量低減については、「グループの事業活動による排出」「販売するエネルギー供給製品・サービスの使用による排出」「販売するエネルギー消費製品・サービスの使用による排出」と、大きく3つに分けて取り組んでいきます。
事業活動による温暖化ガスの排出への対応については、19年度では114万トン(t)の温暖化ガスを排出していましたが、それを30年度までに81万t程度まで削減します。19年度比で28%の削減率です。この領域では、省エネ設備への投資、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大といった施策を行います。
いまや石炭火力事業は「ギルティ」
販売するエネルギーを供給する製品・サービスの使用による温暖化ガスの排出については、19年度に5億3763万tだったものを、30年度に2億6882万tと約半分にまで減らす計画です。20年11月から石炭火力発電所建設工事の新規受注活動を一切中止し、火力発電事業の大幅な縮小を宣言しました。ただし、新規受注活動はしないものの、既存の石炭火力発電設備のメンテナンス事業や設備改良などによる高効率化は、他社製を含めて引き続き進め、それも含めて温暖化ガス低減に貢献していく考えです。
石炭火力事業縮小の一方で、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー関連事業や電力供給事業、エネルギー・リソース・アグリゲーション事業*1を推進するとともに、二酸化炭素(CO2)分離回収技術の開発や実証も進めています。
最後の、販売するエネルギーを消費する製品・サービスの使用においては、19年度の6839万tを30年度に5882万tと約14%削減する目標を掲げています。具体的な施策としては、当社が取り扱う社会インフラ関連や、空調や照明などビル関連、POS(販売時点情報管理)システムなどのリテール関連といった分野において、当社の強みの1つであるパワー半導体デバイスなどを活用した省エネ製品の提供や、デジタル技術による機器の環境負荷低減に取り組んでいく方針です*2。
これまでの東芝にとって、石炭火力関連は大きなビジネスでした。その撤退は重大な経営決断です。しかし、海外、特に欧州では石炭火力に関わる企業はいまや「ギルティ(有罪)」といった目で見られます。もう、石炭火力事業を推進する企業は国際市場で認められないというのが、世界の標準になっているのです。もし、石炭火力事業を継続すれば、金融面や市場競争において非常に不利な立場となってしまいます。
石炭火力からの撤退や脱炭素は、国際的なビッグトレンドです。そうした世界の動きや顧客ニーズに従うべきだというビジネスの基本、原則的な考え方からの経営判断です。今後はさらに脱炭素へ踏み込んでいくことになります。