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サバゲーグッズをプリント

なぜ、3Dプリンターを開発することになったのでしょうか。

山口:私はもともと商用車の開発に携わっていましたが、そこを退職した後は、秋葉原にあった工作室のようなところに入り浸っていました。今でいう「ファブカフェ」のようなところで、そこでサバイバルゲーム(サバゲー)用のグッズなどを造って売っていました。その工作室が2014年ごろ、3Dプリンターを導入。スタッフが常連だった私に「使ってみないか」と声をかけてくれました。これが3Dプリンターとの出会いです。実際に使ってみたら面白くて。自分でも買って、サバゲーグッズをプリントするなど3Dプリンターの機能を試していました。

 その工作室でドローンの修理をしたり、お客さんの相談に乗ってモデリングしたりする傍らで、個人的にサバゲーのグッズを造って売っていました。サバゲーはマニアの世界です。勝負に関わるエアガンのパーツなどにはこだわります。「他社のパーツの半分の質量なら、2倍の価格でも買う」というお客さんもいました。3Dプリンターの機能を使いこなせば樹脂製のパーツを半分の質量で造れますから、そこそこ売り上げがたちました。

 その後、材料押し出し方式のプリンターでエラストマー製のお札入れや小銭入れなどを造って販売していた時期もあります。エラストマーのような軟らかい材料は、造形するのが難しいのです。しかし、誰もが「できない」「限界だ」と思っている範囲が、本当は「できる」し「限界ではない」のではないかと疑って、攻めた設計に挑戦するのが面白かったですね。

 例えば、エラストマーで造形する際のスピードです。エラストマーのような軟らかい樹脂で造形する場合、普通はゆっくり押し出します。この常識を疑うのです。ゆっくり押し出さなきゃならない原因は何だろう。造形スピードを上げられないのはどうしてだろう。スピードを上げるとどういうトラブルが起こるんだろう――。このように故障の木解析みたいに探っていく。すると、対策が見えてきます。それによって特殊な設計が可能になったり、プリンターの改善につながったり、できないと言われていた範囲まで踏み込んでできるようになるのが楽しかったですね。

 そんな時、SNSで知り合ったグーテンベルク社長の李(丞株氏)から、100万円程度の3Dプリンターを2台買うという話を、21年5月ごろに聞きました。購入したばかりの3Dプリンターを見に行って、「なぜ2台も買ったの?」などと雑談をしている中で、3Dプリンターを使ったビジネスの話題になりました。「3Dプリンターを販売する事業を始めよう」「造形サービスのほうがいいのでは」「個人でものづくりをしたい人を支援するメーカーズのようなサービスができないか」などと話が広がりました。

 その際、李から「一緒に事業を立ち上げよう」と強く誘われたのです。最初はやんわり断っていましたが、「3Dプリンターを造れるか」と聞かれたので、「材料費が100万円ほどあったら、とりあえず試作品は出来るかもしれない」と話しました。それがきっかけで、実際に造ることになったんですね。

3Dプリンターで造形したエラストマー製の小銭入れ
3Dプリンターで造形したエラストマー製の小銭入れ
(写真:尾関祐治)
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最初から造れる自信があったのでしょうか。

山口:実は、それ以前にも3Dプリンターを造れないかと持ちかけられて、設計した経験がありました。その設計経験をベースにすれば、めったに使わないような無駄と思える機能があって値段ばかり高い既存の3Dプリンターよりもっといいものが造れるはずだとは考えていました。先ほど述べた「限界と思っていたところを解決する」要領です。例えば、デュアルノズルのヘッドは要らないと思いました。ノズルを1つに減らせばプリントヘッドが軽くなってスピードを上げられます。

 当初は、3Dプリンターの機構にCoreXYを採用すると想定していたわけではありません。しかし、開発メンバーでどういうプリンターにするかという方向性を話し合ったときに、高速化できるCoreXYを採用して1ノズルにするという案に決まりました。

(写真:尾関祐治)
(写真:尾関祐治)
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