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 電気自動車(EV)を年間2000万台製造するという壮大な計画を掲げる米Tesla(テスラ)。目標達成には10TWhを超える規模のリチウムイオン電池が必要とされ、電池メーカーの開発・受注競争は熱を帯びる。その渦中にいるのがパナソニックエナジーだ。同社副社長でCTO(最高技術責任者)を務める渡辺庄一郎氏に、テスラ向け新型「4680」や新方針「ニッケル(Ni)レス」など電池開発の方向性を聞いた。(聞き手は久米秀尚、清水直茂=日本経済新聞社)

パナソニックエナジー副社長の渡辺庄一郎氏
パナソニックエナジー副社長の渡辺庄一郎氏
(写真:パナソニック)
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テスラは中国・寧徳時代新能源科技(CATL)や韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)からもEV向け電池を調達するようになった。テスラに独占供給する体制ではなくなったが、同社との関係をどう捉えているか。

 テスラはグローバルに事業を展開するようになった。北米と中国、欧州にそれぞれ拠点を構える。その中で当社は、特に北米の領域でしっかりと存在感を出したいと考えている。

 市場ごとにリチウムイオン電池のすみ分けがある。中国を中心とするアジア圏では、CATLが展開するLFP(LiFePO4、リン酸鉄リチウム)系電池のほうが優位だろう。EVにそれほど長い航続距離が要求されないので、(高容量ではないが安価な)LFP系電池が向く。

 一方、北米や欧州では、航続距離の長いEVが売れている。こうした市場では、当社が得意とする高容量の電池に分がある。ハイエンドの領域では勝っているので、そこでしっかり勝負していく。

テスラのEV「モデル3」
テスラのEV「モデル3」
日本で販売中の車両は中国・上海工場で生産されたもの。ベースグレードの車両にはCATL製のLFP系電池を搭載する。(撮影:日経Automotive)
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電池市場の世界シェアを見ると、パナソニックは10%以上を確保しているものの、徐々にCATLや韓国勢などに奪われている。

 電池材料の購買力を考えると、10%以上のシェアを持っていないと存在感は示せない。サプライチェーンを維持するためにも、ある程度のシェアをしっかり取っていかないとだめだ。当社の電池生産能力は現状、年間で50GWhほど。実は、この規模でも正極材や負極材は材料メーカー1社では供給しきれない。だからこそ、一定の規模を持ちながら複数社から電池材料を調達できるサプライチェーンを構築することが必要だ。

 電池メーカーや材料メーカーとしては当然、最終製品のEVがどれくらい売れるかが気掛かりになる。そこの力強さは間違いなくテスラは持っているので、当社としてもテスラ向けの電池にしっかり取り組んでいく。

テスラ向けでは、新型リチウムイオン電池である4680(直径46mm×長さ80mmの円筒形電池)の量産を2023年度中に開始する予定だ。北米の拠点ではなく、和歌山工場で生産性の検証、そして量産するのはなぜか。

 4680は新しい規格の電池なので、製造方法を含めて検証・確認すべき点が多い。それをいきなり海外拠点で大量生産するのは難しい。まずは、量産の基本的なところを日本の和歌山工場で詰めたほうがいいと判断した。

 一例が電池の生産設備だ。日本を含むアジア製が多く、北米で現地調達できるわけではない。日本で設備の選定や調整などの方向性を固めてから北米に展開するほうが、量産を数カ月早められる。このほか、安全性の確認やタクトタイムの短縮など、新型電池が開発から生産に移行する際に発生する課題を見極めていく。

4680を含めて、パナソニックは円筒形にこだわっている。改めてその理由を確認したい。かつては角形やラミネート(パウチ)形などと比べて安価な印象があったが、今はそれほど差がないように思える。

 電池コストの多くは材料が占めるので、ある規模を超えると電池の形状が異なっても価格はさほど変わらない。円筒形の利点は開発スピードだ。