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東京大学教授の染谷隆夫氏は、世界的に高名な有機エレクトロニクスの研究者だ。2020年4月に、東京大学工学部および大学院工学研究科の長となった。同氏に同大学工学部の未来展望を聞いた。(聞き手=中道 理)

撮影:栗原 克己(以下同)
撮影:栗原 克己(以下同)
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工学部の役割についてどのようにお考えでしょうか。

染谷氏 工学系研究科や工学部というのは、大学の中で非常に特徴のある活動をしていると考えています。研究者というのは普通、研究対象を調べて整理して理解する、つまり探究することが主な仕事なのですが、工学では、探究するだけではなくて、その成果を社会に生かし、社会の課題を解決するところまで行います。ですから、現代社会の課題が複雑化する中で、我々としては、課題解決に実質的に貢献することを目指していきたいと思っています。

 その中で、やはり今、世界の状況をみると、まずグローバル化の大きな波があって、さらにデジタル革新の大きな波がある。この変化の波を積極的に活用しながらより良い社会の実現を目指したいと思います。

 グローバル化もデジタル化もみんな言っていることなのですが、その中で、非常に重要で、大学がきちんと考えなければならないのが、サステナビリティー(持続可能性)、特に限りある資源をどうやって最大限に活用するのか、です。既にSDGs(持続可能な開発目標)のような全世界的なゴールがあるわけですが、大学はそこを重視したうえで課題を解決していく必要がある。その中で守るべきものとして、いわゆるグローバルコモンズ(人類共有の財産)があります。昔は物理的なモノを指していましたが、デジタル化の時代にあっては当然サイバースペースもグローバルコモンズの中で大きな位置付けを占めています。

 具体的には、個人の健康情報や位置情報、デジタル化された社会の情報などは、個人のものでもあるし、社会のものでもある。こうしたデータの利活用が無法地帯になってしまうと、一部の企業が独占して、本来みんなで共有すべきものが守られなくなる可能性がある。こうしたサイバースペースの情報の利活用についても、大学はより良い社会を目指して新しいやり方を考えていく必要があると思います。