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 カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の実現には、革新的な環境技術の開発が不可欠。この難題に日本企業はいかに挑むか。元トヨタ自動車のHY人財育成研究所所長の肌附安明氏が参考になると言うのが、かつて自動車に課せられた厳しい排出ガス規制「マスキー法」を乗り越えたトヨタ自動車の事例。全社を挙げた開発支援の仕組みが、現在の脱炭素時代にも必要だ。

(出所:PIXTA(左)、イラスト:高松啓二(右))
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(出所:PIXTA(左)、イラスト:高松啓二(右))

脱炭素関連の取材をしていると、2020年10月の菅義偉首相による2050年カーボンニュートラル宣言のインパクトの大きさが分かります。どの企業も異口同音に、次世代環境技術の開発のスピードアップが求められており、実用化目標が前倒しになったと言います。中には、これまでは将来を見据えた研究の扱いだったのに、急に注目され、早く事業化せよと周囲から迫られて戸惑っている技術者もいるようです。「そんなに簡単に実用化できるなら苦労しないよ」と。

 ますます、かつての米国の1970年大気清浄法、通称「マスキー法」をほうふつとさせますね。

 何度も言いますが、今のカーボンニュートラルが求める厳しい二酸化炭素排出量の抑制が企業に与える試練は、1970年代にマスキー法が定めた厳しい排出ガス規制が世界の自動車メーカーに与えたそれと酷似していると感じます。トヨタ自動車で生産技術者として働いていた当時の苦しかった状況は、今でも忘れられません。

改めて、マスキー法は自動車の排出ガスに含まれる有害ガス(一酸化炭素と炭化水素、窒素酸化物)の排出量を1970~71年型の車種に対して1/10以下に抑えなければ、1970年代半ば以降に生産する自動車の販売を認めないという厳しい法律でしたね。米国の3大自動車メーカーもそろって不可能だと反発したと聞きます。当時の米国の自動車メーカーの技術力は日本の自動車メーカーよりもはるかに上だったはず。であれば、当然ながら日本の技術者も無理だと思ったのではないでしょうか。

 1年前の2020年の春ごろを思い出してください。新型コロナウイルス感染症が世界的にまん延し、その影響でほとんどの日本企業が2021年度の業績予想を見送るほど先の見通せない状況にありました。そうした中で、人々はワクチンに希望を見いだしていましたが、テレビの報道番組などで多くの医療関係者が「簡単にはできない。どんなに頑張っても3年以上かかる」と言っていたのを覚えていませんか。私も知り合いの医師に早くワクチンができないのかと聞いたことがあるのですが、「そんなに簡単なものではないんですよ」と言われました。

 しかし、その後どうなったでしょう。1年もたたないうちに海外でワクチンは完成し、2021年4月半ば時点で、既に米国では6000万人を超える国民がワクチン接種を済ませているではありませんか。専門家の予想がいつも当たるとは限りません。

 私はトヨタ自動車の技術者としてマスキー法を乗り越えた経験から、「本気を出せば、どんなに難しい技術だって開発できるんだ」という信念を持っています。

最初からマスキー法をクリアできると思っていたのですか。