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 2027年開業を目指すリニア中央新幹線の基礎となる技術を鉄道総研で長年手掛けてきた。超電導磁石、リニアモーター、非接触給電……。リニアで培ったコア技術は他の分野に転用可能だ。車輪を使う鉄道はもちろん、分野が異なる製品まで狙う。幅広い展開はリニアにもメリットをもたらすとみる。(聞き手は木崎健太郎)

長嶋 賢(ながしま・けん)氏
長嶋 賢(ながしま・けん)氏
鉄道総合技術研究所 浮上式鉄道技術研究部部長 (写真:加藤 康)

 リニア中央新幹線につながる「リニアモータ推進高速鉄道」の研究が旧日本国有鉄道の鉄道技術研究所(現鉄道総合技術研究所、鉄道総研)で始まったのは1962年、つまり東海道新幹線が開業する2年前のことでした。余談ですが新幹線も鉄道総研が深く関与した技術で、所在地が「ひかりちょう」(東京都国分寺市光町)と呼ばれるのはそのためです。当時在籍した先輩の話では、当時研究所内に「第2の東海道新幹線が必要になるだろう」との議論があったそうです。新幹線がまだ運行してない、出来上がる前から「多分パンクするから次を造らなければ」と考えていたのです。

 鉄道総研はリニアモーターカーの技術を生み育ててきました。現在も基礎研究は続けていますが、リニア中央新幹線の実用化に向けた開発が始まった今は、これまで研究してきた各種技術を他用途に展開する開発に比重を移しています。例えば超電導磁石をもっと台数が出るエネルギー蓄積装置などに使えれば、今より安いコストで造れるようになるはずです。リニアモーターカーへもたらすフィードバックも期待できます。

鉄道総研が開発し続けてきたリニアモーターカーの構成
鉄道総研が開発し続けてきたリニアモーターカーの構成
浮上と推進用のコイルは側壁に置く(鉄道総合技術研究所の資料を基に一部編集)
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リニアの技術を展開する

 浮上式鉄道技術研究部の前身である浮上式鉄道開発本部は長らくリニアモーターカーの実用化に向けた試験研究を手掛けていました。転機は2005年。山梨実験線の走行試験が順調に進み「もう営業できるレベルの技術になった」と国土交通省の評価委員会から認定されました。あとは建設して営業するという段階になると、鉄道総研としてはリソースのかけ方を変えざるを得ません。開発本部を解散して浮上式鉄道技術研究部に衣替えしました。

 中央リニア新幹線の営業が始まった後も開発や改良はずっと続きますから、リニアモーターカーやその要素技術の基礎研究は今後も続きます。ただ、開発した要素技術を他にも役立てる技術展開が今後のもう1つの柱となります。

超電導磁石を軸受けに使った蓄電装置
超電導磁石を軸受けに使った蓄電装置
(鉄道総合技術研究所の資料を基に一部編集)

 例えば超電導磁石を使った非接触軸受け。重い回転体を浮上させて支えます。これを組み込んだフライホイール方式の電力貯蔵システムは、鉄道の回生電力や自然エネルギーによる電力に適用できます。既に山梨県の大規模太陽光発電所で実証試験をしており、JR東日本が在来鉄道の変電所での実証実験を今後始める予定になっています。

 非接触給電技術の展開も考えています。JR方式のリニアモーターカーは走行用エネルギーを車両に供給せず走ります。ですが、実用的な鉄道として使うには空調や照明、超電導磁石の冷凍機への電力は必要です。そのためにガイドウエイから非接触で電力供給する技術を確立しており、これは在来線のバッテリー電車への電力供給などに応用できるとみています。

 地上コイルなどの設備のメンテナンスのため、営業列車が走りながらデータを集める仕組みも研究しています。インフラ側にセンサーを設けておいて営業列車でデータを回収すれば、検査用の特別列車はもちろん、データ集めのために担当要員を線路に出す必要性を減らせます。鉄道総研の独自の考えによる研究の延長ですが、在来鉄道のインフラ保守効率化の他、さまざまな分野で意外とニーズがあるのではないかと考えています。