KDDIは2022年5月13日、23年3月期から25年3月期まで3カ年の中期経営戦略を発表した。5G(第5世代移動通信システム)を中核に据え、通信と非通信の両輪で成長を図る狙いだ。NTTドコモやソフトバンクが、料金引き下げの影響で成長の軸足を非通信に移す戦略に対し、KDDIは値下げ影響を脱し、通信分野でも反転を目指す。その勝算についてKDDI社長の高橋誠氏に聞いた。(聞き手は堀越 功=日経クロステック)
新たな中期経営戦略では、5Gを中核に据えた「サテライトグロース戦略」を掲げました。これまでの「通信とライフデザインの融合」から転換した理由は。
終わった期までの中期経営戦略は、通信とライフデザイン商材を融合させていく戦略だった。成長分野であるライフデザイン領域とビジネスセグメントで売り上げを伸ばしていくという戦略はうまくいったものの、全社の中期経営戦略の期間(20年3月期~22年3月期)におけるCAGR(年平均成長率)は1.5%にとどまった。料金引き下げの影響は結構大きかった。
通信事業者である我々は5Gを元気にしなければならない。ならば、太陽のように輝く5Gをど真ん中に置き、DX(デジタルトランスフォーメーション)や金融、エネルギーなどの注力領域を惑星のように仕立てる。そうすることで、全社的に迫力のある中期経営戦略になると考えた。これをサテライトグロース戦略と呼んでいる。
もう一つ、我々はこれまでの「通信とライフデザインの融合」戦略を「両利きの経営」として、左手が既存通信事業、右手が新規事業と捉えていたものの、課題を指摘されたことがある。右手の新規事業が「飛び地のように見える」というものだ。新たな戦略では、こうした指摘を踏まえた面もある。
5Gは、センターに置くに足るポテンシャルがあります。
4G時代に日本は大成功した。端末をリーズナブルな価格で利用者にお渡しし、それを使ってもらうことでデータARPU(契約当たり月間平均収入)が上がる。通信事業者の収入が増えることで、ネットワークにさらに投資できるという大成功モデルだった。
5Gでも同じことをやればよい。いろいろな政策が動いたものの、もう一度原点に立ち返って5Gの端末をできるだけ早く利用者に浸透させる。我々は25年3月までに5G契約浸透率を80%まで高める目標を掲げた。これによってデータARPUを上げ、収益が潤うことを前提に、3年間で1.3兆円規模の5Gを中心とした設備投資を計画している。このような、よい循環が起きる状況をつくっていきたい。
今回の中期経営戦略を発表したところ、海外のニュースにも取り上げられた。5G拡大によって成長していくと宣言したことが、世界の通信事業者に勇気を与えたようだ。実は我々だけでなく米Verizon Communications(ベライゾン・コミュニケーションズ)もものすごい勢いで5Gネットワークを広げ、データARPUを増やしている。今回の戦略は、ベライゾンをロールモデルに宣言したという背景もある。
戦略発表後、KDDIの株価が急上昇しました。
社内でかなり議論し、ARPUを上昇させる計画を描いた。ただNTTドコモやソフトバンクは、決算会見で値下げによる減収影響が引き続きかなり大きいと言っている。KDDIだけ楽観的という風にも見られている。