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 「世界で勝てるドローン産業をつくっていきたい」。ソニーのパソコン(PC)事業を前身とするVAIOは2020年3月、産業ドローンの機体開発およびソリューションを提供する子会社VFRを設立した。これまでPCやロボット事業で培ってきた技術を「空飛ぶコンピューター」とも言われるドローンで活用し、日本のドローン産業を世界で勝てるものに育てるビジョンを描く。コンシューマー向けでは7割を超える世界シェアを持つDJIを筆頭に、中国が「ドローン先進国」の名をほしいままにしているが、点検、物流、測量など用途別に要求特性が異なる産業向けではまだ十分に勝機があるとする。VFR代表取締役社長で、VAIOのCINO (Chief Innovation Officer)を兼務する留目真伸(とどめ・まさのぶ)氏に聞いた。同氏は以前、中国レノボの日本法人(レノボ・ジャパン)などで社長を務めた経歴を持つ。

「ドローンとPCは飛んでいるか否かの違い」

日本の産業ドローン市場は2025年までに6400億円を超える規模に成長するとの予測(インプレス総合研究所調べ)もあります。一方で、高い期待感の割には市場が立ち上がっていない印象もあります。

VFR代表取締役社長の留目真伸(とどめ・まさのぶ)氏。VAIOのCINO (Chief Innovation Officer)を兼務する。インタビューはオンラインで実施した
VFR代表取締役社長の留目真伸(とどめ・まさのぶ)氏。VAIOのCINO (Chief Innovation Officer)を兼務する。インタビューはオンラインで実施した
(写真:VFR)
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留目 確かに産業ドローンの市場はまだ本格的に立ち上がっていませんが、ここにきて普及への課題がクリアになってきました。まず規制緩和によって、2022年度には有人地帯での目視外飛行(第三者上空)が可能になる「レベル4」が解禁される予定です。そして産業分野でどこにどんなニーズがあるのか見えてきました。あとは、産業用途別(点検、物流、測量など)の開発が進めば市場が立ち上がって成長していくと認識しています。

 ドローンには得意分野と不得意分野があります。エネルギー効率が悪いので、代替手段がある分野ではドローンに置き換わることは考えにくい。しかし、ドローンでないとできないことはたくさんあります。災害時や、これまで人手に頼っていた危険な作業やコストがかかる点検作業、人が入れない場所での作業など。ドローンの活用が‟正解”である分野から導入が進み、それらを足していくと大きな市場になると考えています。

 現時点で中国が「ドローン先進国」であるのは事実です。中国では思い切った規制緩和を実施し、官民一体でドローン産業を推進しています。特に新しい産業領域は官需が引っ張っています。具体的には、軍隊、警察、消防での利用です。一方、日本ではいきなり官需で産業を引っ張るのが難しいため、市場の立ち上げが慎重に見えるのでしょう。

なぜ今のタイミングで、ドローン専業子会社のVFRを設立したのでしょうか。

留目 政府が2019年6月に「空の産業革命に向けたロードマップ2019」を公表し、ドローン産業の発展に向けたロードマップが明確になりました。そして、市場でもこれから産業ドローンのニーズにアクセルがかかろうとしています。

 実はVAIOもドローン事業をこれまで手掛けていなかったわけではなく、2年ほど前から受託生産をしたり、試作機を共同で開発したりしていました。具体的にはナイルワークスの農業用大型ドローンの量産や、エアロネクストが持つドローンの重心制御技術「4D GRAVITY」の原理試作を共同で実施しました。

 こうしてドローン事業者と話を重ねる中で、VAIOに何が求められていて、どう取り組んでいくべきかが、2019年後半あたりから見えてきました。ドローン産業における我々の立ち位置がクリアになったのでVFRを設立することにしました。

VAIOが培ってきた技術や知見をドローン事業で有効活用できると考えたのですか。

留目 そうです。VFRは最初に取り組む事業として、2020年5月11日に自律制御システム研究所(ACSL)との用途別産業ドローンの共同開発を発表しました。

 これまで日本のドローン産業ではACSLのようなスタートアップが垂直統合型のビジネスモデルで、付加価値が高い自律航行システムから機体の開発、ソリューションのパッケージングまですべてをやってきました。しかし、今後、市場が黎明(れいめい)期から「社会実装期」に移行すると、産業の用途別にドローンを開発し、量産していく必要があります。こうなると、さすがに1社ですべてをやるのは無理で水平分業型への移行が必須です。

 中国にキャッチアップし追い抜いていくには、日本のさまざまな関係者が力を合わせていかなくてはならない。そうした中で、VAIOが蓄積してきたコンピューティングやロボティクスの技術を生かせます注)

注)VAIOの前身は、長野県安曇野(あずみの)市の旧ソニーEMCS長野テック。ソニー時代には、パソコンだけでなく、エンターテインメントロボット「aibo」を生産している。VAIOではロボットやIoT製品の開発を効率化するための「ロボット汎用プラットフォーム」を提供している。

 ドローンはコンピューティング技術の塊で、中身は“PCそのもの”です。センシングしてきたデータを処理し、アウトプットをして制御に変えていく。違いは、飛んでいるか否かです。

 具体的には、小さい筐体(きょうたい)にどれだけ高密度に実装できるか、あるいは同じCPUを搭載していてもパフォーマンスを最大化するためにどう実装するか、また排熱処理や省電力化の技術なども重要です。我々はドローンを、VAIOが持つPC技術の発展領域ととらえています。

 私は以前、レノボ・ジャパン社長(NECパーソナルコンピュータのトップにも就任)を務めていたので、世界のレノボグループの中でも日本の技術に対する評価が高いことを知っています。例えば、米IBMのノートPC「ThinkPad」の開発はずっと日本でやっていたし、レノボに移管された今でも日本で開発を続けています。