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 世界最大のディスプレー学会であるThe Society for Information Display (SID)から「2021 SID Fellow Awards」を受賞したソニーグループの野本和正氏。同氏が研究開発マネジメントを務めた、2021年5月に開催された「SID Display Week 2021」でソニーグループが発表した内容について聞いた。(聞き手は東 将大、根津 禎、構成は赤坂 麻実=ライター)

先日開催されたSID 2021での発表内容をご紹介いただけますか。

 次世代ディスプレー技術の3つの技術カテゴリー、「ボリュメトリック」「パノラミック」「ニアアイディスプレー」から1つずつ発表しました。

ソニーグループは「SID Display Week 2021」で3件を発表した
ソニーグループは「SID Display Week 2021」で3件を発表した
(出所:ソニーグループ)
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 まずボリュメトリックなものでは、視線検出して立体視を可能にするライトフィールドディスプレーです。2020年のCESと「InfoComm」で展示済みで、既に「空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)」として製品化していますが、SIDでは初めて技術内容を発表しました。

 少し振り返っていただきたいのですが、2010年代に3Dテレビが市販されたものの、2017年にすべてのメーカーで量産が終了しました。普及が進まなかった理由の一つに解像度の低さがあります。なぜ解像度が低かったかといえば、様々な方向から見られるようにするため、1つの画素に複数のサブピクセルを使っていたからです。9視点であれば9個のサブピクセルを使って表現するので、その分、解像度が落ちてしまっていました。

 今回、われわれはまったく異なるアプローチで物の実在感の表現に取り組みました。鍵になるのはソニーの視線検出技術です。瞳を検出し、その瞳の位置に応じてリアルタイムに3Dの画像を生成するという仕組みです。サブピクセルの数は増やさないので、解像度は下がらない。多方向から見えるにもかかわらず高精細であるというのが、今回の技術のポイントです。

 実現には、ソニーの高速イメージセンサー技術や顔追跡技術、計算環境の高速化、リアルタイムのレンダリング技術などを用いました。複数人で見ることはできませんが、1人で見る限りは、どの角度からでも高精細な3D映像が見られます。

2020年10月に発売した「ELF-SR1」
2020年10月に発売した「ELF-SR1」
既に展示会などでも利用されている。(写真:日経クロステック)
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解像度が高いだけでなく、立体的に見せるための工夫も進化させているのでしょうか?

 3Dの認知科学に基づいて、構造にも工夫をこらしています。一般に、テレビの画面はほぼ垂直に置かれていると思いますが、今回のディスプレーは斜め45度に設置します。3D映像を見るには水平面を認知することが大切なのですが、垂直に立てたディスプレーで水平面を表現すると、一本の線にしかなりません。

 そこで、ディスプレーを45度に傾けると、水平面はある面積を持って認知されます。そのディスプレー上に表現された3Dの奥行きのある水平面像を、手前にある物理的な水平の枠部分に誘導させることで、人間は立体感を認知しやすくなることが分かっています。

 付属パーツで表示面の左右に黒い壁を設けているのも同様の理由です。この壁があることによって、人間は3Dの誘導を促されるという性質があるんです。

左右の黒い壁やディスプレーの枠のパーツは簡単に取り外しできる
左右の黒い壁やディスプレーの枠のパーツは簡単に取り外しできる
(写真:日経クロステック)
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SIDの発表の中ではすでに製品化されている技術ですが、どのような用途、市場を想定していますか?

 3Dコンテンツのクリエーターをターゲットにしています。3Dテレビが消えたなか、なぜ今回また新たに3D映像のディスプレーに取り組んだのかというと、制作サイドで3Dモデリングをしてコンテンツを作りたいという機運が高まっているように感じたからなんです。特にゲームやインターネット、医療などの分野に広がりつつあります。

 それに、以前にアバターなどがブームになった頃に比べて最近は、コンテンツ制作の技術も、機械学習などを含めて飛躍的に向上しています。3Dが広まらなかった理由の1つに、コンテンツ(の数や質)の不足もあったと思うのですが、その問題が今なら解消できると思います。このディスプレーが、3Dコンテンツ制作者のオペレーションを支援できるといいなと考えています。