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 5G(第5世代移動通信システム)の本格化に伴い、同一の物理ネットワーク上にカスタマイズした仮想的なネットワークをつくる「ネットワークスライシング」などを活用した、新たな競争が始まりつつある。ソフトバンクはネットワークの未来をどのように描いているのか。同社の技術全体を統括する、専務執行役員兼CTO(最高技術責任者)テクノロジーユニット統括の佃英幸氏に聞いた。(聞き手は堀越 功=日経クロステック、高槻 芳=日経クロステック/日経コンピュータ)

ソフトバンク専務執行役員兼CTO(最高技術責任者)テクノロジーユニット統括の佃英幸氏
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ソフトバンク専務執行役員兼CTO(最高技術責任者)テクノロジーユニット統括の佃英幸氏
(写真:加藤康)

5G(第5世代移動通信システム)のSA(Stand Alone)方式の商用化がスタートし、ネットワークスライシングの提供も視野に入ってきました。

 SA方式は2021年秋にスタートした。ネットワークスライシングの提供にはまだ開発が必要な段階だ。2022年秋ころになると見込んでいる。

 現在、ネットワークスライシングに必要なさまざまな要素を実装している。例えば中継網には、柔軟かつ拡張性の高い「SRv6 MUP(Mobile User Plane)」というアーキテクチャーを取り入れた。従来はそれぞれの通信にパスを張るGTP(General packet radio system Tunneling Protocol)という仕組みを使っていた。SRv6 MUPは、用途ごとに仮想的なネットワークでクラス分けするネットワークスライシングとも親和性が高い。

ソフトバンクが開発・実装した「SRv6 MUP」の特徴
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ソフトバンクが開発・実装した「SRv6 MUP」の特徴
従来のGTPトンネルによるアーキテクチャーと比べて、柔軟でコスト効率のよいアーキテクチャーになる(出所:ソフトバンク)

 SRv6 MUPはソフトバンクが中心となって開発した。現在、世界に広く普及することを目指して、ベンダー各社を巻き込んでアピールしている最中だ。

KDDIやNTTドコモもネットワークスライシングに注力しています。ただ無線のリソースは有限なので、カスタマイズしたスライスをつくり過ぎると、すぐに限界が来るということも見えてきました。

 デバイスにAI(人工知能)モジュールを入れて処理を分散し、有限な無線リソースを最適に使われるように総合的にシステムをコーディネートする。こうすることでベストな解を見いだせる。

 例えば私は、あちこちの講演で「カメラで撮影したRAWデータを、そのままネットワークを介してアップロードするのはやめよう」と話している。その代わりに、カメラなどエッジデバイスにAIモジュールを入れる。

 撮影したデータをエッジデバイス上のAIモジュールが解析し、例えば人数をカウントしたり、工場内のメーターを読んだりしたりするなど特徴データだけをアップロードする。そうすることで、重要データを秘匿化できるほか、ネットワークを介してやりとりするデータ量を少なくし、高レスポンスな環境をつくれる。

 ソフトバンクはこのようなエッジAIカメラの実装も徹底的に進めていく考えだ。デバイスを含めてサービスクラスを分けていくことで、無線リソースが有限であっても、全体最適できる。

無線アクセスネットワーク(RAN)の分野では、さまざまなベンダーの機器をオープンインタフェースに基づいて組み合わせられる「Open RAN」の存在感が高まっています。

 我々もRANのオープン化を推進する業界団体である「O-RAN ALLIANCE」に入っており、オープン化を検証中だ。(ソフトバンクが主に採用するベンダーである)スウェーデンのEricsson(エリクソン)やフィンランドのNokia(ノキア)にもオープン化をリクエストしており、前向きに検討してもらっている。

 ラストワンマイルの無線部分には多様性が求められる。各国で周波数帯が異なるため、実はこれらのベンダーにとっても、効率的なビジネスではない。

 ただし我々のネットワークにOpen RANを導入していくには、構造上時間がかかる。まずは計算内容もシンプルな、プライベート5Gのエリアから導入が進むだろう。