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 来日したオランダNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の上席副社長兼コネクティビティ&セキュリティ担当ゼネラル・マネージャーであるRafael Sotomayor氏に話を聞いた(図1)。新型コロナウイルスのパンデミックのために、久しぶりの来日になった同氏は、実際に役立つスマートホームに向けて同社が開発提供する半導体製品を中心に熱く語った。(聞き手は小島郁太郎=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

図1 NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の上席副社長兼コネクティビティ&セキュリティ担当ゼネラル・マネージャーであるRafael Sotomayor氏
図1 NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の上席副社長兼コネクティビティ&セキュリティ担当ゼネラル・マネージャーであるRafael Sotomayor氏
(撮影:日経クロステック)
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担当のコネクティビティ&セキュリティ部門では幅広い製品を扱っていますが、特に注力している領域や技術は何でしょうか。

 今とてもエキサイティングに感じている2つの技術があります。スマートホームの実現に向けたコネクティビティー規格である「Matter」と、車載用途を中心に高精度な測距測位を可能にするUWB(Ultra-Wide Band:超広帯域)無線通信です。

 Matterから先にご説明します。スマートホームの革新や普及を妨げているのが、複数のコネクティビティー規格が存在することです(図2)。このため、デバイス(機器)が互いに協調して動作できないケースが少なくありません。例えば、ユーザーが米Google(グーグル)のデバイスを購入したときに、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)のエコシステムと互換性がないためにうまく動作しないことがあります。

図2 スマートホームのイメージ
図2 スマートホームのイメージ
多数のコネクティビティーが基盤となっている(出所:NXP Semiconductors)
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 購入したデバイスがどのエコシステムに属するかをユーザーが意識することなく、すぐに使えるようになっていることが理想ですが、現在はそうなっていません。このため、掛け声が大きい割に、スマートホームに対するユーザーの関心は低いままです。

 また、セキュリティーの課題もあります。スマートホーム関連のアプリケーションはほとんどがクラウドと接続して用を成します。例えば、顔認証による玄関鍵の管理システムは、玄関ドアのカメラ映像とクラウド上の顔データを照合します。当然、セキュアーな接続が求められますが、消費者がスマートホーム用のデバイスを購入する際に、セキュリティーという項目をあまり重視しない傾向にあります。重視するのはコストです。このため、低いコストで高いセキュリティーを実現する必要があります。

 この接続性や互換性、およびセキュリティーの両方に効果があるのがMatterの技術です。MatterはIP(Internet Protocol)ベースのプロトコルで、安全かつ堅牢(けんろう)にさまざまなノードを接続できます。また、ネットワーク転送中のデータを暗号化することでパケット盗聴を防ぐ、ユーザーデータの暗号化キーを保護するといった機能があります。スマートホームの数多くのセンサー群を一元的に管理することを可能にし、真のスマートホームを実現します。

Matterに関して、NXPはどのような活動をしているのでしょうか。

 まず、CSA(Connectivity Standards Alliance)という非営利組織において、GoogleやAmazon.com、米Apple(アップル)、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)をはじめとした多くのメンバーと共にMatterの普及推進に力を入れています。例えば、ユーザーに積極的にMatterの採用を提案してきました。

 2022年1月にはMatter規格を採用した初の半導体製品「IW612」(図3)を発表しました*1。Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、Thread(802.15.4)の3つの無線通信規格をサポートするモノリシックICです。Matterはこれらの既存の無線通信規格の上位に当たる規格のため、既存規格間のブリッジとして機能します。3つの無線通信規格をサポートしているため、このICを「Tri-Radio」チップと呼んでいます。

図3 Matter準拠の無線通信IC「IW612」の概要
図3 Matter準拠の無線通信IC「IW612」の概要
(出所:NXP Semiconductors)
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 IW612はパワーアンプや低ノイズアンプ、高周波フィルターなどを統合しており、RFフロントエンドICを外付けする必要はありません。また、IW612は当社が高いシェアを持つモバイル決済やモバイルウォレット向けのセキュリティー技術に由来するセキュリティー機能を備えており、Wi-Fi通信に必要なセキュアーな起動/デバッグ/ファームウエアアップデート/暗号キー生成などが可能です。さらに、モバイル決済やモバイルウォレットレベルの高度なセキュリティー機能が必要なユーザーに向けては、「SE05x」のようなセキュアーエレメント(セキュリティー処理専用IC)を用意しており、これをIW612と一緒に使っていただけます。

他の半導体メーカーは、Tri-Radioチップを提供していませんか。

 開発を進めている企業はあるようですが、現時点でサンプル出荷に至っているのはNXPだけのはずです。また、当社は今後、Tri-Radioチップ2製品を投入予定です。最初の製品「IW612」はWi-Fiのチャネル帯域が80MHzですが、ハイエンド向けに160MHzで最大2×2のMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)が可能な製品と、20MHzでMIMO無し(1×1)の製品を計画しています。また、セキュリティー機能にも違いがあります。