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 「日本の品質」はこれまで、世界市場で勝つための強い武器となってきた。ところが近年、その地位が揺るがすような品質問題が多発している。信頼を取り戻し、競争力を再び高めていくために日本の製造業は「品質」にどう向き合うべきか。トヨタ自動車で品質管理畑に長らく従事し、日本科学技術連盟(日科技連)理事長として日本の品質力向上に取り組んでいる佐々木眞一氏に聞いた。(聞き手は中山 力、高市清治、岩野 恵)

佐々木眞一 氏
佐々木眞一 氏
日本科学技術連盟 理事長 トヨタ自動車 元副社長(写真:日経クロステック)

 近年、「品質」を製品やサービスがある基準に合致しているという狭い意味で使うことが多いように思えます。「品質」という概念はそもそも、顧客や社会のニーズを満たす度合いを測る尺度として導入されてきたものです。顧客や社会が変われば、品質で測るべき対象も測り方も変わってきます。ところが、日本の産業界を全体的に見渡すと、そこを見誤ってしまった面があるのではないでしょうか。

 一方で、顧客や社会の変化を的確に捉えて事業形態、つまり創り出す価値を変えるという活動を続けてきた「良い会社」もあります。その活動の中では、提供する価値をきちんと品質として測っているはずです。

 では、そうした会社は自らの変革をどう遂げているのだろうか。そういう議論をする場として、私が理事長を務める日本科学技術連盟(日科技連)が2017年に創立したのが「品質経営懇話会」です。運営委員会委員長の坂根さん(コマツ顧問の坂根正弘氏)のコマツをはじめ、製造業に限らずさまざまな企業の取り組みを語ってもらいました。

 坂根さんは常々、「ビジネスモデルで先行して現場力勝負すれば日本は負けない」とおっしゃっています。現場力というと製造や土木の作業現場といったイメージがあるかもしれませんが、現場力勝負というのは、日本が培ってきた組織を運営する組織運営力と言い換えていいと思います。

 日本の組織運営力は、欧米流の単なるトップダウンではなく、トップの意思を正確に受けて下からも提案し、階層ごとに役割を果たしていくというものです。TQM(総合的品質マネジメント)をきちんと実践できる組織能力を身に着けた現場と捉えてもいいでしょう。

求められる品質、実現できる品質がDXで変わる

 品質に関する大きい変化がもう一つあります。いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の技術が発達したことで、企業が満たせる顧客ニーズの質やレベルが変わった点です。

 今までは、「自分用にカスタマイズしたサービスを提供してもらいたい」といったニーズがあったとき、提供者側がそれを満たすには多大なコストが必要になっていました。「分かりました。あなたのために特別なサービスを提供しましょう。ただし、価格は高いです」というわけです。ところがDX、例えばビッグデータを活用した情報解析などによって個別対応を実現できる手段が手に入りつつあります。

 それに伴い、顧客や社会のニーズも高まってきます。提供者である企業側がDXで高いニーズに応えようとすると、顧客や社会も「こういうことをやってもらえるのか」「こういうこともできるのでは」と大きな期待を持つようになります。DXはニーズを高める作用と、そのニーズに対応する手段という2面性があるのです。

 こうした変化に関連して、品質保証のあり方も変わってきます。共通の規格を決めて守るというのではなく、個々に対してカスタマイズする必要が生じるのです。顧客個人にとっての品質ですから、顧客と提供者の1対1の、ある種の契約関係になります。