全4392文字

新型コロナ渦中の2020年3月にマスク生産の国内回帰を表明、材料の内製化や規模拡大に進むアイリスオーヤマ(仙台市)。月産1億5000万枚のマスク国内生産は最初の一歩。コロナ禍でも好調な販売と、培った生産技術を武器に生産拠点やサプライチェーンの再構成を目論(もくろ)む。集中から地産地消へ、社長の大山晃弘氏に戦略を聞いた。

写真:阿部勝弥
写真:阿部勝弥

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)は、当社に関して言えば追い風になっています。マスクが通常より売れていますし、巣ごもり消費でパックご飯や日用消耗品などの消費も伸びています。リモートワーク支援のために、パソコン(PC)用デスクや周辺機器、液晶ディスプレーなども好調です。ペット商品以外は前年を大きく超えています。

 生産にもさほど大きな影響はありませんでした。一時は中国工場の生産が停止していましたが、国内工場はほぼ従来どおり稼働していました。新型コロナで何か特別なことをしたわけではありません。当社の工場はもともと自動化を進めていて作業者同士の距離が空いていて、「3密」にならない体制だったため、稼働を止めるような事態にはならなかったのです。

むしろ生産性は高まった

 新型コロナを機に、当社でもリモートワークがかなり進みました。実は、新型コロナ前から働き方改革の一環としてリモート化は検討していました。それが新型コロナで花開いたという感じです。

 特に外回りの営業スタッフは、オフィスに週に1回程度出社するという体制になっています。生産性は、むしろ以前より高くなったのではないでしょうか。リモートで顧客と接するため移動時間が無くなったのに加え、東京や大阪の拠点にいる技術者やデザイナーが、簡単に商談に同席できるようになったからです。

 従来は、大きな案件でないと技術者やデザイナーは同席しませんでしたが、リモート化によって、ある程度の規模の商談なら、関係者が気軽に集まれるようになりました。技術的な質問に即答したり、デザインの要望についてすぐアイデアを提示したりと商談の質が高まっており、リモートにして良かったと思っています。

 工程管理や生産予測など一部の工場管理業務もリモート化し始めています。実は、新型コロナにかかわらず、一昨年(2018年)から米国や欧州ではIoT(Internet of Things)技術を使って工場管理業務のリモート化ができないか検討していました。人材が定着しない上に、人件費が非常に高いからです。

 技術的にはリモートでの監視・管理は可能です。問題はコミュニケーションですね。現場の工場長やライン長としっかりコミュニケーションが取れないと、生産設備の立ち上げや生産そのものが計画通りに進みません。

 そこで、例えば日本の海外工場担当者は海外工場の稼働時間帯に合わせて夜勤をし、生産トラブルが発生した際も先方と国際電話やチャットツールなどで話をして、リアルタイムでトラブル対応できる体制を組んでいます。日本から直接対応できれば現地の省人化も図れて、高い人件費を削減できます。もともと人手不足に対応すべくグローバル連携を進めようとIoT化やデジタルツールの活用を進めていましたが、新型コロナでその動きが加速しています。

 商品の売り方も変わってきました。インターネット通販の比率が高くなっています。かねてネット通販には注力していますが、新型コロナで一気に増えています。以前はネット通販に難色を示していた顧客も、必要に迫られて使うようになったのが理由の1つです。この動きは今後の流通を大きく変えるとにらんでいます。

 課題はセキュリティーです。リモートワークの成果は上がっていますが、セキュリティーの面ではまだ脆弱なところがあります。