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 2020年3月末に5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスを始めたものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響で出鼻(でばな)をくじかれたNTTドコモ。官邸が再び料金下げ圧力を示すなか、コロナ禍でどのようなかじ取りを進めていくのか。NTTドコモの吉沢和弘社長に聞いた。(聞き手は高槻 芳=日経クロステック/日経コンピュータ、堀越 功=日経クロステック)

吉沢和弘(よしざわ・かずひろ)氏
吉沢和弘(よしざわ・かずひろ)氏
1979年に岩手大学を卒業し、日本電信電話公社(現NTT)に入社。NTTドコモ(旧エヌ・ティ・ティ移動通信網時代を含む)では経営企画部や人事育成部などの担当部長を務め、2007年6月に執行役員第二法人営業部長。2011年6月に取締役執行役員人事部長、2012年6月に取締役常務執行役員経営企画部長を経て、2014年6月に代表取締役副社長。2016年6月に代表取締役社長(現職)。(撮影:日経クロステック)

新型コロナの感染拡大で、社会インフラとしての通信事業者の役割が増しています。

 20年初頭は現在のような事態をまるで想定していなかった。これまでも日本はリモート駆動型社会への準備をしてきたが、コロナ禍で全面的に対応しなければならなくなった。働き方はもちろん教育、医療を含めて、通信事業者が果たすべき役割が大きいと再認識した。通信インフラの安定運用は絶対的な役割だ。5Gを活用した遠隔支援や制御など、リモート駆動型社会に向けたソリューションを展開していくことで、産業構造や社会構造の変革を促したい。

企業がテレワーク導入などリモート駆動型社会に向けて積極的になりました。

 企業からの問い合わせや受注は当社も非常に増えている。例えば当社が提供するWeb会議システムは、新型コロナの感染拡大以降、約600社に導入した。中小企業の多くはこうしたシステムを導入しておらず、まずは2カ月無料で使えるようにして受注が伸びている。

 5Gを活用した企業向けソリューションも増やした。例えば20年3月に提供を開始した「ドコモオープンイノベーションクラウド」は、東京、大阪、神奈川、大分の4拠点に低遅延を生かせるエッジコンピューティングの機能を配置した。顔認証や入退出管理をエッジで処理して、低遅延で現場に返せる。

 5Gとスマートグラスを活用して、AR(拡張現実)で工場やプラント内の作業を手助けするサービスも始めた。実際にソリューションを活用する企業が出てきた。

法人事業は追い風が吹いていますが、コンシューマー事業は店頭への来客減少など逆風です。

 確かに20年4〜5月におけるドコモショップなど店頭への来客数は前年同期比で3割ほど減ったが、現在は回復してきた。6月の販売数は前年同月比でプラスになった。7月も同じ傾向が続きそうだ。19年6月は新料金プランを開始した月で販売数が減ったという特殊事情があるものの、コロナ禍で前年を超えることに意味がある。

新型コロナの感染拡大で5Gは出鼻(でばな)をくじかれた格好になりました。直近の契約数は。

 5Gの直近の契約数は17万件で計画を少し上回るペースだ。このうち約半数は、月に使えるデータ量がキャンペーンで無制限となる大容量プランを契約している。これも想定以上の比率だ。恒常的に無制限プランを提供できるか試しているところだが、現在のデータ量であれば設備上の問題はない。恒常的に無制限プランを提供することを検討している。

4月の決算説明会で、21年6月に5G基地局を1万局設置する目標の達成が新型コロナの影響で厳しいという発言がありました。

 当時は基地局のサプライチェーン(供給網)で一部滞りが出ており、弱気の発言になってしまった。しかし、6月に入って供給網も動き出し、調達の心配はなくなった。基地局を建設する工事会社の稼働も平常に戻っている。4〜5月に遅れが出たが20年後半に遅れを取り戻したい。目標として掲げた21年3月に500都市、21年6月に1万局、22年3月に2万局を展開する計画は達成できる。

KDDI(au)とソフトバンクは22年3月までに5G基地局を約5万局設置する計画を明らかにしています。ドコモの計画は見劣りします。

 KDDIとソフトバンクは既存周波数帯を5Gに転用する基地局も多く含めているのだろう。既存周波数帯を活用するとアンテナのピクト表示は「5G」になるが、速度はLTE並みにとどまる。利用者に誤解を与えかねない。ドコモも既存周波数帯を活用するが、(より高速化を図れる)新たな周波数帯できちんと2万局を展開する。

 総務省は制度改正で、LTE向けに割り当てた700MHz帯のような周波数帯を5Gで展開した場合もLTEで展開したと見なす方針だ。ドコモは700MHz帯の割り当て条件となっているLTEの展開計画に対して90%を超える進捗(しんちょく)だ。KDDIやソフトバンクはそこまで達していない。5Gで展開した場合もLTEと同様と見なすことは、本来の周波数帯の割り当て趣旨からするとおかしいのではないかと考えている。