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手作業で成形しているとは思いませんでした。

浅輪:今回のVAIO Zは、フラッグシップモデルとして6年ぶりに出す製品です。顧客の期待値は高まっているだろうと予想されますから、高性能というだけではインパクトに欠けると悩んでいました。フラッグシップモデルはどういう製品であるべきか。周囲からのプレッシャーも軽くはなかったです。

 その1つの特徴としてCFRPの採用を極めようという方針が決まったのが2019年秋ごろでした。話し合いの中で、ディスプレー周囲のベゼルまで天板と一体で造ろう、パームレスト手前の部分も湾曲させてみようといったアイデアが出てきました。軽くて強いというCFRPの強みを最大限に引き出すという面でも、製品価値につながる先進性という点でも優れているという共通認識が生まれたのです。

 ただし、アイデアとして出てきた形状は従来の経験が通用しそうになく、実現できるかどうかは分かりませんでした。VAIOは独立後、「堅実なものづくり」を重視していますが、その半面、チャレンジングなところに踏み込めなくなってきた部分がありました。しかし、会社としてそうしたチャレンジをする時期に来たのではないか、と決意を固めたのです。

 特に難しかったのが、天板のヒンジ側両端で袋状になっている部分です。実は、この部分は最初のデザイン案にはない形状でした。CFRPの特徴を最大限に出したいと、デザイナーが悩みに悩んで出してきたのがこの形状なのです。

 それまでの形状でも十分にチャレンジングなものでした。私は上司に「少なくとも3年かかるような挑戦です。そういうリスク、覚悟を持っています」と言っていたのですが、それ以上に難しい形状が出てきたわけです。

 一緒に開発を進めていた東レにとっても、最初のデザイン案ですら経験がない形状です。当初は本気では受け止められていなかったようなのですが、「仮型は造ってみましょう」と一歩を踏み出しました。ビスを打つ部分に目的の絞り形状を成形できるか、エッジの立った曲げは実現できるかといった検証を進め、曲げ角度や稜線(りょうせん)の曲率半径を微調整しつつも、「ここまでならできそう」という感触を得られるようになっていきました。

 ところが、ほとんどの部分の検証が済んで設計が固まっていた段階でも、デザイン部門からヒンジ部分の具体的な形状は決まっていませんでした。CFRPの性能を最大限引き出したいと1週間待っても、まだ出てこない。ついに最終形状が出てきたのは1カ月後でした。

 一見して、かなり実現が難しそうな形状でした。しかし、発売日や試作の日程も決まっていて、もうこれ以上引き延ばせませんから、「考え直して」とは言えません。カーボンの特徴を最大限に引き出す形状として考えに考え抜いた形状でしたから、「やるしかない」と腹をくくり、実現方法を考えるのに全力を尽くしました。既にボトムを成形する本型は動いていたというタイミングです。

 三角形になっている側面の部分は、2方向から折り曲げたプリプレグのシートを重ね合わせて実現しています。まず、どのようにプリプレグを切断し、折っていけばよいのかを決めなくてはなりません。紙で試作しながら、試行錯誤しました。曲げる部分では内側と外側で炭素繊維に必要な長さが変わりますから、折り曲げる順番や折り方も工夫しています。

 なんとか目的の形状を成形できるめどは立ちましたが、量産できるかどうかは別問題です。特に難しかったのは熱プレスによる成形時に側面で重ね合わせた部分の接合です。上下に金型が動く熱プレスでは圧力を加えにくい。「リスクはVAIOが負います」と東レにお願いして、なんとか量産がスタートしたのです。

「VAIO Z」のCFRP製ボディー
「VAIO Z」のCFRP製ボディー
天板、ボトム、パームレストの3部品をCFRPで立体成形した。(写真:スタジオキャスパー)
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 今回、ベゼル部もCFRPとしたことで(ボトム、天板、パームに加えて)「4面」や「フルカーボン」といった表現を使っていますが、それ自体が目的だったわけではありません。あくまで、CFRPを有効に使って「軽くて強くてかっこいい」を達成するための形を追求した結果です。それを実現するために高い難易度の技術が多く必要だったのです。