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「これは一筋縄ではいかない形状だ」

こうした形状を実現するため、CFRP部品の成形だけでなく、ノートパソコンとして組み立てる工程での対応も必要になったと思います。

清水:CFRPの部品は東レが成形したあと、多くの協力メーカーさんによる切断や塗装などの工程を経て、長野県安曇野市の本社工場に納品され、ノートパソコンの部品として組み立てられます。従来もCFRP製のボディー部品を組み立てた経験はあるのでノウハウはありますが、新しいVAIO Zで採用しようとしている形状を最初に知ったとき、一筋縄ではいかないと覚悟しました。

 もちろん、開発の上流段階でのデザインレビューでは、3D-CADで作成した形状データを見ながら製造側からの要求を伝えます。しかし、設計制約でどうしても変更できないところが生じます。そこは製造側の対応でなんとか解決するしかないのです。

 例えば、天板のヒンジ側をアンダー形状にしたため、従来の工程を大きく変える必要がありました。開発の終盤で決まった、あの形状です。

 CFRPのボディー部品には、その後の組み立ての基準となる樹脂製の部品を0.1mm以内の位置精度で接着する必要があります。しかし、従来の方法ではアンダー部への接着剤の塗布、部品の配置そのものが困難でした。そこで、天板、樹脂部品の相対的な角度や位置関係を変えられる治具を新たに設計して導入し、天板の角度を変えながら接着剤を塗布、樹脂部品を配置する作業を実現しています。

天板に樹脂部品を接着する装置
天板に樹脂部品を接着する装置
アンダー部に接着剤を正確に塗布するため、天板を一時的に傾ける治具を開発した。(写真:益永淳二)
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 アンダー形状がないはずのボトムでも、組み立て時の干渉を解決する工夫が求められました。ボトムの側面にある穴にUSBコネクターなどの樹脂部品のリブを差し込む必要があり、従来と同じ上下動だけでは位置決めできなかったのです。これは想定外でした。

 そこで、樹脂部品を組み付ける際にボトムを湾曲させてボトム側面の内側が樹脂部品側を向くようにしています。組み付け時に作業者がボトムを湾曲させる方法も考えましたが、部品を接着する位置を安定させるため、ボトムを湾曲させる治具を設計し、解決しています。

かかったコストは断トツ、でも次につながる

清水 慎也(しみず しんや)
清水 慎也(しみず しんや)
VAIO 製造・EMS本部 技術&製造部技術課。2008年、ソニーイーエムシーエス入社。以来、パソコンの製造技術を担当。VAIO独立後のほぼ全機種の量産導入をリードする。(写真:益永淳二)

天板へのベゼル部一体化は問題になりませんでしたか。

清水:天板の両端にあるコの字形状部分に液晶ディスプレー(LCD)を差し込むという工程は、今までにない方法でした。ほとんど隙間がない状態で差し込むので、無理に差し込むとLCDや配線が破損してしまいます。従来は天板とベゼルは別部品で、天板の上にLCDを配置し、その上からベゼルをおいて挟み込むという組み立て方でした。全く違う方法になります。

浅輪:組み立て方が大きく変わるとは認識していたのですが、「きっとうちの製造部ならきちんと組めるだろう」と、ベゼル部の一体化そのものは製造に相談する前に決めていたのです。もちろん、デザインレビュー等で情報共有はしましたが、製造担当者をかなり苦労させた部分だと思います。

清水:そこで今回は、天板の反りを補正しつつ、LCDを真っすぐと無理なく差し込めるような治具を開発しました。押し込む作業自体は手作業です。最初の試作で、するするとLCDが入ったのを見たときは感動しましたね。

 加えて、治具にはセンサーを付けてLCDに無理な力が加わっていないかを検知するようにしています。このように、部品の負荷を確認しながら組み立てるという方法は、VAIOでは初めての取り組みでした。作業者の感覚に加えて、測定値も利用して品質を確保しているわけです。エラーが出たら1度LCDを外して、天板の寸法やLCDの厚みなどを確認。部品不良があれば交換するという運用にしています。 このようにVAIO Zで採用した従来にないCFRP部品に対応するため、新しい組み立て方や治具を考え出しました。単に組み立てられるか否かだけでなく、作業性の高さや品質確保のしやすさといった点にも配慮して組立工程を設計しています。

液晶ディスプレーを天板に差し込んでいる作業
液晶ディスプレーを天板に差し込んでいる作業
ベゼル部を天板と一体化したため、従来とは全く異なる作業が必要になった。(写真:益永淳二)
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浅輪: VAIOの設計、製造部門だけでなく、東レや加工メーカーを含めた多くの企業の協力もあり、20年11月ごろには量産のめどがつきました。3年はかかると覚悟していた開発ですから、多くの方々の協力に感謝しています。

 実は、今回のCFRP製ボディーはVAIO史上で断トツのコストがかかりましたが、中長期的なVAIOの未来を見据えた先行投資的な意義があると考えています。大きな伸びしろがあるCFRPで、顧客により高い価値を提供していく第一歩として次につながります。