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 異色の戦略を採る電池スタートアップが、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。ノルウェーのFREYR Battery(フレイルバッテリー)だ。2021年7月8日、NYSEでの取引開始を告げる「オープニング・ベル」を鳴らすセレモニーに1人の日本人が参加していた。FREYRでCTO(最高技術責任者)を務める川口竜太氏である(図1)。

図1 ニューヨーク証券取引所に上場したFREYR Battery
図1 ニューヨーク証券取引所に上場したFREYR Battery
取引開始を告げる「オープニング・ベル」を鳴らすセレモニーを2021年7月8日に実施。前列左から3人目が、同社CTOの川口竜太氏。(出所:FREYR Battery)
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 同氏は日産自動車で車載電池や電気自動車(EV)の開発に従事。同社のEV「リーフ」の企画から量産立ち上げまでを経験し、オートモーティブエナジーサプライ(AESC)にも出向した。その後、EVプロジェクトを立ち上げたばかりの英Dyson(ダイソン)に移籍。「EVの開発拠点に毎日顔を出していた」という創業者のJames Dyson(ジェームズ・ダイソン)氏のそばで、3年ほどを過ごした。転機となったのは19年。DysonはEV開発からの撤退を発表し、このタイミングで川口氏はFREYRに参画した。

 FREYRは、電池のライフサイクルにける二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにする“CO2フリー電池”の大量生産を目指す。技術開発に特化する多くの電池スタートアップとは異なり、最短距離での量産を重視する。22年内にパイロットプラントを稼働させ、25年には年産43GWhまで生産能力を拡充していく計画だ。

 同社の川口氏はCTOでありながら、「ゼロからの技術開発はやらない」と公言している。その真意はどこにあり、FREYRは何に注力していくのか。上場に合わせて米国に滞在している川口氏に、オンラインで話を聞いた。

まず、FREYRに参画することになった経緯から整理したい。

 FREYRに入る前、私はDysonでEVを開発していた。DysonはEVのプロジェクトを突然やめ、約600人もの関係者が一気に失業した。撤退の発表は突然で、自動車部門のトップ以外の関係者は知らされていなかったと思う。ただ、予兆はあった。3カ月くらい前から採用を渋りだしたり、大規模な開発テーマの承認が遅くなったり……。「なんかおかしいなぁ」と思っていたが、まさかすっぱりやめるとは想像していなかった。プロジェクトの軌道修正くらいはあるだろうとは思っていたが。

 DysonがEVから手を引いた理由は明確で、EVで利益を出せるめどが立たなかったからだ。非常にシンプルで極めて合理的な企業だ。EV開発には1000億円規模の資金を使っていた。日本企業なら、1000億円も使ったらプロジェクトをやめられないだろう。それをスパッと判断できるのがDysonのすごいところ。ただ、Dyson氏は続けたかったのではないか(図2)。彼は毎日、自動車開発の拠点にいた。思い入れがあって、自分のクルマが欲しかったのだろう。

図2 Dyson創業者のJames Dyson氏
図2 Dyson創業者のJames Dyson氏
自動車への思い入れが強く、21年のEV発売を目指して開発を進めてきた。(出所:Dyson)
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 だが、彼は経営には関わっていない。経営判断を下すのはCEO(最高経営責任者)を筆頭とする経営チームの役割だ。DysonがEV開発を始めたころ、新興のEVメーカーで芽が出ていたのは米Tesla(テスラ)くらい。だから、そのタイミングではまだ勝ち目があった。その後いくつもの新興メーカーが登場し、既存の自動車メーカーもEVを投入し始めた。厳しい競争環境の中でダイソンが存在感を出すのは難しくなっていったわけだ。

 こうした経緯でDysonを離れることになり、次を探すことになった。幸い、新型コロナウイルス感染症が広まる前で、自由に動ける状況だった。それに、欧州ではEVや電池のCO2削減への関心が高まり、色々なところからオファーをもらった。

複数のオファーの中から、FREYRを選んだ理由は。

 一番は、FREYRのビジネスモデルが成功するいいタイミングだと思ったこと。あと、当時は10人くらいしかメンバーがいなかったことも大きかった。他に電池の経験者がいなかったので、技術戦略をゼロから構築できる環境だったのも魅力的だった。加えて、ノルウェーが電池生産国として可能性が高いことや、EV先進国に住むことで最新のトレンドをいち早く把握できる点もFREYRを選んだ理由だ。