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 業績絶好調のソニーグループ(ソニーG)が2021年度は研究開発(R&D)費を6100億円と前年比2割増額し、攻勢を強めている。全世界が新型コロナウイルス感染症の流行という不確実な時代に直面するなか、R&Dのかじ取りはソニーGの将来に大きな影響を与える可能性がある。コロナ禍で求められるテクノロジーはどう変化し、今後どのようなテクノロジーのR&Dに注力していくのか。同社執行役 副社長 兼 CTOで、R&Dのトップを務める勝本徹氏に聞いた。(聞き手は内田 泰=日経クロステック/日経エレクトロニクス、東 将大=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

ここ数年、ソニーGの研究開発費は毎年増加しています。研究開発費の配分はどのような状況になっているのでしょうか。

 21年度の研究開発費は、グループ会社も含めた全社で6100億円です。20年度は5252億円、19年度は4993億円だったので、ここ3年は右肩上がりで増加しています。

 21年度の各セグメントへの割り振りは非開示ですが、参考までに20年度の内訳は、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)が全体の28%、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)が同26%、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)が同32%でした。G&NSとI&SSは、19年度に比べてどちらも研究開発費が1割強増えています。

 全体の研究開発費の中で、私が担当している本社のR&Dセンターの研究開発費は、450億円ぐらいです。ここ4~5年は、ずっと一定水準の金額で推移しています。

ソニーグループ 執行役 副社長 兼 CTO、R&D担当、メディカル事業担当補佐、R&Dセンター長の勝本徹氏
ソニーグループ 執行役 副社長 兼 CTO、R&D担当、メディカル事業担当補佐、R&Dセンター長の勝本徹氏
(写真:加藤 康)
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それぞれの組織で、研究開発の中身がすみ分けられているのでしょうか。

 例えばグループ会社のR&Dは、分野にもよりますが、ざっくり言うとだいたい3年ぐらいの時間軸で研究開発をしています。その中でもエレキが3年ぐらいで、半導体はもう少し期間が長くなります。エンタメは3年よりも短く、直近の1~2年で必要になるものを現場で一緒に開発しつつ、3年目以降の仕込みをしているイメージです。

 全社のR&Dセンターは、それらより少し先を見ていて、3年から10年の時間軸で仕込みをしています。R&Dセンターの中でも、材料やデバイスになるとスパンが長くなり、5年以上かかるようなものが多くなります。さらに予算の5%弱を割いて、量子コンピューティングや脳科学など、10年後にきっとソニーGの引き出しになるであろう技術について、出口を全く考えずに取り組んでいるチームもあります。

 10年を超えたもっと先の社会課題を解決するチャレンジについては、別組織のソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)が担当しています。こういった様々な時間軸上で色々なチームが担当しながら研究開発を進めています。

 ただ、組織ごとに縦割りされているかというとそうではなく、技術や人材交流が盛んな“バトンタッチゾーン”みたいなのもあります。事業化に貢献できるレベルまで研究開発が熟成してきたら、担当者ごとに事業側に行ってバトンタッチする場合がありますし、逆に事業側の人がR&Dセンターに来て一緒に研究開発した成果を持ち帰るケースもあります。

人と人が触れ合える技術を

コロナ禍によって、研究開発に注力する技術が大きく変化した部分はあったのでしょうか。

 研究開発の観点では、人々が1カ所に集まれなくなったのが間違いなく大きいです。我々は「3R」という言葉を使っていますが、以前は「リアリティー」「リアルタイム」の2Rだったところに、新たに「リモート」が加わって3Rになりました。

 いわゆる没入感のある映像や音声を、遅延なく届けるのが2Rでしたが、それを遠隔地にも届けるのが3Rです。ソニーGは「人に近づく」という経営方針を掲げているので、物理的に近くなくても人と人とが触れ合えるような技術を、1つでも多く生み出したいと考えています。

 最近の3Rの取り組みでよく例に挙げるのが、大画面マイクロLEDディスプレーを背景に用いて映像制作する「バーチャルプロダクション」や、「360 Reality Audio」の立体音響技術を生かした映画製作向けサウンドミキシングツール 「360 Virtual Mixing Environment(バーチャル・ミキシング・エンバイロンメント)」です。

 バーチャルプロダクションを用いた短編映画の撮影に立ち会った人から話を聞くと、監督が本当にノリノリで撮影していたそうです。背景となるディスプレーがあって、ディスプレーの前には舞台がある。ここで様々な小道具を使って工夫するのが楽しくて仕方がないそうです。

 バーチャルプロダクションには撮影場所や撮影時間にとらわれないというメリットがある半面、「創作に集中してこだわりすぎて撮影が終わらないのが危ない」とも言われています。例えば夕焼けのシーンがあったとしたら、普通の撮影なら夕日が沈めば撮影が終わりますが、バーチャルプロダクションだとずっと夕焼けのシーンが撮れてしまう。それぐらい現場の人が熱中してしまうそうです。