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 ウシオ電機は、新型コロナウイルスの不活化(感染力や毒性の消失)効果が期待される222nm紫外線の光源モジュールを搭載した「Care222ユニット」について、製品化を当初計画の2021年初頭から20年9月に前倒しした。経緯や柔軟な製品化を支えた研究開発の考え方を、同社執行役員でR&D本部長 兼 ウシオテクノラボ担当役員の小高大樹氏に聞いた。(聞き手は、高野 敦=日経クロステック)

Care222の量産前倒しはどう判断したのか。

小高氏 222nm紫外線の光源モジュールは、人体に安全で、かつ様々なウイルスや菌を不活化させるものとして、約5年前に研究を始めた。研究では既に十分な蓄積がある。優位性に自信があるからこそ量産に踏み切った。

新型コロナ禍という非常事態とはいえ、急な前倒しに不安はなかったか。

小高氏 実証に時間がかかる研究と異なり、生産は仕様が決まればその後は早い。Care222を量産する播磨事業所は、動き出したら早かった。

ウシオ電機執行役員でR&D本部長 兼 ウシオテクノラボ担当役員の小高大樹氏(写真:加藤 康)
ウシオ電機執行役員でR&D本部長 兼 ウシオテクノラボ担当役員の小高大樹氏(写真:加藤 康)

 トップの判断も大きい。新製品は往々にして採算性や事業性が問われるが、今回の件では社長以下、損とか得とかの話ではなく社会に貢献するために早く進めるという認識で一致していた。

紫外線の新型コロナへの有効性が報じられて以降、実用化を求める声が増えていた。

小高氏 Care222による新型コロナへの効果および人体への安全性は引き続き検証を進めている。既に他のコロナウイルスへの効果は確認されており、その不活化原理から新型コロナにも有効という確信はある。さらに人体への安全性についてもエビデンスがそろっており、感染拡大防止や感染リスク低減のためにも、1日でも早く対応したい。

222nm紫外線の光源モジュールを搭載した「Care222ユニット」(出所:ウシオ電機)
222nm紫外線の光源モジュールを搭載した「Care222ユニット」(出所:ウシオ電機)
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もともと、薬剤耐性菌への対抗手段として、30~40年ごろの量産を目指して取り組んでいた研究だと聞く。長期的な研究テーマを抱えつつ、突発的なニーズにどう対応しているのか。

小高氏 息の長いテーマを設定しつつも、その過程で中期的、短期的なアウトプットを出すように取り組んでいる。研究の途上で発生した突発的なニーズに、ある程度柔軟に、かつ最短で対応できる。

 光を扱う我々の研究テーマは、極言すれば、照射する側の光と、その光を当てられるモノの相互作用で決まり、組み合わせは無限にある。中には従来のやり方で短期的に実現するものがあり、それらは事業部が主体となって進める。

 一方で、光反応の本質にまで踏み込んで、新たな光の照射方法を確立しなくてはいけないようなものは、R&D本部が担うことになる。

 ただし、最近はR&D本部でも出口のユーザー企業と一緒にやることを意識している。研究開発で一番困るのは、研究自体は最後まで進んだけれど製品が売れないこと。ユーザー企業との意見交換が重要になる。

技術者がユーザーニーズもくみ取るのか。

小高氏 役割分担が必要だ。研究者は出口を意識する必要はあるが、基本的には実現手法を確立するのが仕事だ。一方で研究を客観的に見ることも重要だ。そこで、R&D本部の中に企画調査部門を設けた。企画調査の担当者が、「何を実施すべきか」「誰と組んだ方が良いのか」などを調べて技術者に提案する。

 企画調査を手掛けるのは、営業や資材など会社の様々な部門を経験してきた人が多い。製品化までのボトルネックを知っている人が、研究全体をハンドリングする。

 どの会社にも企画調査と似た機能はあるかもしれないが、それぞれが別々に行動して意思疎通を図れていないとも聞く。当社は新型コロナ以前から、研究者と企画担当者が席を並べて話し合っていた。今は在宅勤務も活用するが、オンラインを含めて同様の水準で会話ができている。

 この体制になったのは比較的最近だが、うまくいっている手応えがある。例えば、パルス光を使った全数検査ソリューションがその成功例の1つだ。検査対象にパルス光を照射することで得られる分光スペクトルを、基準データと比べることで、成分量を判定するもの。1秒間に数十個以上を検査できるので、従来は抜き取り検査しかできなかった製品でも全数検査を実施できる。