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 自動車の付加価値の源泉がハードウエアからソフトウエアに移る中、技術者の役割が変わる。ハード技術者は不遇の時代を迎えるのか。人工知能(AI)やデータの重要性が高まる中、自動車開発の考え方はどう変わるのか。自動車技術会の新会長に就任した寺師茂樹氏に聞いた。(聞き手は清水直茂=日経クロステック)

寺師茂樹(てらし・しげき)氏
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寺師茂樹(てらし・しげき)氏
自動車技術会 第31代会長。任期は2020~21年度(写真:トヨタ)

「主役はソフト」と言える時代になる。これまで主役だったハード技術者にとって、厳しい時代になりそうだ。

 ハード技術者の役割は一層重要になる。今後の自動車は、ソフトを更新することで生産を開始した後にも進化する。一方、ハードは簡単に更新できない。ソフトの進化をあらかじめ見越したハード設計が必要になる。モデルライフの間にソフトがどこまで進化するのか、とても先まで考えなければならない。ハード技術者にはかなり大変な時代となり、重要性は高まる。

 ソフトが変わらない前提の時代だったら、ハード技術者は生産後に「壊れない」「長持ちする」「誤作動しない」ことに気をつければよく、最終形を十分に予測しながら開発できた。一方でソフトが変わるとなれば、生産後にも要求機能が変わるわけで、最終形を見通すのはとても大変なことだ。

 例えば自動運転では生産開始時に「レベル2」だったものが、ソフトや法律が変わることで、2年後に「レベル3」、さらに数年後に「レベル4」へと進化できるかもしれない。米Tesla(テスラ)のような事例は、これから増えるだろう。

 ただハード側のセンサーの能力がレベル4に足りなければ、ソフトを進化させても実現しない。かといって取り付けたセンサーを結局使わなければ、もったいない。ハード設計はとても難しくなる。

ソフト技術者の役割は高まる一方だ。

 ソフトには2種類ある。1つは、お客さんの困りごとを助けるもの。ADAS(先進運転支援システム)でぶつからないようすることや、ペダルの踏み間違いを防ぐといったことは、ソフトでかなりできる。もう1つは、お客さんの期待を超えるようなサービスを提供すること。楽しくなるとか、わくわくするとか。

 ソフト技術者には、従来の価値観にはないアイデアを実現しなければならない大変さがある。行きたいところを見つける、というのがとても大事だ。言われた通りにソフトを組むだけではだめだ。

 行く先を考えるには、クルマだけを見ていてはだめだし、異なるビジネスをやっている人などと話す場が必要だ。ソフト技術者がこれから無限に広がる新しい世界のことを考えたり、今後の技術進化の方向を共有したりする場を自動車技術会につくりたい。

 これまでの発想だとイベントを開催して、となるが、新型コロナウイルス感染症の拡大で行動が制限され、オンラインでいろいろできることが分かった。自席にいながら、多くの人と議論できる。こんな状況下だが自動車技術会としてやれることはある。