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「本気の産学連携」広めていく

 私は昔、出来の悪い学生で、留年する可能性が高かったため、最も人気がない研究室に配属されました。そこで偶然出会ったのがチタンの研究でした。こんなに面白い研究はないと思い、熱中しました。東大の教授としては珍しいのですが、今でも筆頭著者として原著論文を書くくらいチタンが好きです。

 世界を見渡しても、チタンを含むレアメタルの分野は研究者が少ない。その結果、私は若い頃からレアメタルの専門家として世界中の企業から相談を受けていました。私に高度な情報が集まり、残存者利益を独り占めできました。私ほど世界の非鉄製錬所、特に貴金属製錬所を見て回っている人間はいないと思います。直近だと英国・豪州の鉱業会社Rio Tinto(リオ・ティント)や素材大手のドイツHeraeus(ヘレウス)から非鉄金属製錬に関する相談を受けました。コンデンサなどを手掛けるニチコンとは5年ほど前から関わりがあり、今でも様々な技術相談を受けます。

 こうした自身の産学連携の経験は生研に還元できると思います。そもそも生研は産学連携に適しています。100超もの独立した研究室があるので、どんなテーマでも連携に適した研究室が見つかるのです。50年にカーボンニュートラルを目指すという政府方針があり、最近は特にバッテリーやモーターのリサイクルに関する研究で連携したいという企業が増えています。

 過去に、ある企業に私との産学連携の条件として「1億円の研究費と優秀な3人の研究者を出すこと」を提示したことがあります。一般的には難しい要求だったのですが、その企業は私の過去の業績などを信頼し、条件をのんでくれました。以来、私と共同研究する条件は「1億円と3人の研究者を用意すること」という話が他企業にも広まったようで、同様の条件で連携してくれる企業も多いです。若手研究者が自ら1億円の研究費が付くような本格的な産学連携を取り付けてくるのは難しいので、企業と連携の話をまとめる段階までは私が手助けすることもあります。そのあとは基本的に若手に任せ、主体的に研究プロジェクトに向き合ってもらいます。

 資金や研究者、技術者を十分に準備した上で社会実装を前提に研究する「本気の産学連携」は、産学連携の理想的なパターンの1つであると考えています。企業にとっては学ぶことがありますし、大学の若手研究者にとっても最先端の成長分野に触れる機会になります。多くの大学の先生が考える産学連携は、私に言わせれば「なんちゃって産学連携」の場合が少なくありません。一例を挙げると、企業からもらったネタを学生が研究・発表し、企業に成果の一部を返すような産学連携です。私から見れば、守秘義務のない学生と行う研究の多くは、「本気の産学連携」になりえません。

 一方で、「本気の産学連携」だからこそ、若手研究者にとっては辛い面もあります。秘密保持契約(NDA)を結んで企業の事業につながる研究に取り組むため、成果を公表できないのです。企業との研究に楽しみを見いだせるかどうかは人それぞれです。早く対外的に目に見える成果を出したい若手研究者は、企業との共同研究を価値のある仕事と受け取るのが難しい点もあるでしょう。

写真:栗原克己
写真:栗原克己
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