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 2016年発売の5代目「インプレッサ」の開発は、社運を賭けたと言えるプロジェクトだ。車種数の少ないSUBARU(スバル)で、全面改良の位置付けは大手他社に比べて大きい。しかもプラットフォーム(PF)の刷新を兼ねた。その出来映えが、今後のスバル車の行方まで左右する。

 開発予算は、通常の全面改良を大きく上回る規模。2012年に開発責任者(PGM:プロジェクトゼネラルマネージャー)になった阿部一博は、重圧に押しつぶされそうになる。2014年に新PFを使った試作車を開発した後、えも言われぬ恐怖に襲われた。

 やばい。売れなかったらどうしよう。どうやって逃げよう。

 試作車を測定した数字を見ると、ちゃんといいところにある。OKとなるはずなんです。でも、なにか十分じゃない。あれ? このまま行くとやばいかも。

 最後の最後にならないと、クルマの本当の出来映えは分からないですよ。途中段階の試作車でこんなにいい性能になるでしょ、すごいでしょとエンジニアは目を輝かせて言うわけです。でも信じられないんです。そうじゃないかもしれない。

阿部一博氏
阿部一博氏
SUBARU 商品企画本部 副本部長 兼 上級プロジェクトゼネラルマネージャー(写真:加藤 康)

 試作車は汚いし、音はうるさい。それでもステアリングの「この感じ」を感じてくださいとエンジニアは言います。運転感覚が鋭い人が多いですから。でもお客さまが本当に感じられるのか。

 まだ音はうるさいけど、後で消せるので、ないものと考えてくださいと。「絶対に大丈夫です」と。いやいやいや。自分の感覚はそうじゃない。本当は違うんじゃないのか。

 スバルみたいな小さな会社で、PFの刷新と車両の全面改良を同時にやる。会社をつぶすくらいの投資規模です。外したら終わり。失敗はあり得ません。これほど金を使って、これでいいのか。もう手はないのか。不安で不安でしようがなかった。

5代目インプレッサ
5代目インプレッサ
新しいプラットフォームを採用し、2016年10月に発売した。5ドアハッチバックと4ドアセダンがある。2.0L直噴ガソリンエンジンと1.6Lガソリンエンジンの2種類を用意した。