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 メルセデス・ベンツ日本が2019年7月からWebでの商談予約を開始したドイツ・ダイムラー(Daimler)の新型電気自動車(EV)「EQC」(図1関連記事)。その発表に合わせて同車の開発責任者であるミヒャエル・ケルツ(Michael Kelz)氏が来日した(図2)。EQCは、高級ブランド「メルセデス・ベンツ」としては日本初となるEV。プラットフォームに後輪駆動ベースの既存のエンジン車やプラグインハイブリッド車(PHEV)と同じ「MRA(Modular Rear-wheel drive Architecture)」を採用し、既存のSUV(多目的スポーツ車)「GLC」ベースとする車種である。また、駆動モーターには、EVに一般的な永久磁石型同期モーター(PMSM)ではなく非同期モーター(ASM)を採用する。同氏に、それらを選定した背景などを聞いた。

図1 メルセデス・ベンツのEQC
図1 メルセデス・ベンツのEQC
同ブランドとしては日本初となるEV。ドイツでは2019年3月から量産を開始している。中国でも同年8月から生産を開始する予定。(撮影:日経 xTECH)
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図2 EQC開発責任者のミヒャエル・ケルツ氏
図2 EQC開発責任者のミヒャエル・ケルツ氏
日本でのEQCの発表会に合わせて来日した。(撮影:日経 xTECH)
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EQCのプラットフォームに既存のガソリン車やプラグインハイブリッド車(PHEV)と同じMRAを採用した理由は何か。

 (EVである)EQCは(販売)台数を予測しにくい。補助金がどうなるかでその台数は変わる。また、EVの生産は、電池の生産量によっても制約を受ける。既存のエンジン車と同じプラットフォームを使えば、同じ生産ラインが使え、(車種ごとの生産台数の調整で)工場の稼働率を高められる(図3)。将来、EVの生産量が安定してくれば、EV専用のプラットフォームを用意することになるだろう。

図3 EQCは既存のエンジン車やPHEVと同一のラインで生産する
図3 EQCは既存のエンジン車やPHEVと同一のラインで生産する
狙いは生産に最大限の柔軟性を持たせること。(撮影:日経 xTECH)
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EQCは、中型SUVのGLCをベースとした車種とした。その理由を聞きたい。

 中型SUVをベースとしたのは、このセグメントが世界で一番成長しているからだ。顧客は、中型SUVの利便性の高さを求めており、同時に速く走りたいという願望を持っている。GLCは、我々が想定した以上に走りが優れている。多くの顧客を獲得できる車種だと見ている。

EQCでは、前後の車軸に駆動モーターを配置している。そのモーターに、EVで一般的なPMSMではなくASMを選んだ。なぜか。

 1つは、効率を重視したためだ。EQCでは、効率を高めるために長距離運転時(低負荷領域での走行時)は前部のモーターだけで駆動する(図4)。このとき、(駆動力を発生せずに成り行きで回転している)後部のモーターが効率を悪化させてはいけない(ASMは、永久磁石界磁でないため、PMSMのような逆起電力による効率悪化が発生しない)。

図4 EQCのフロントフード下
図4 EQCのフロントフード下
中央にパワー・コントロール・ユニット(PCU)と思われるユニットが見える。その下に配されているのが前部のモーターを含む駆動アクスルと見られる。(撮影:日経 xTECH)
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 もう1つは、出力を重視したためだ。効率の最大化を意識した前部のモーターとは違い、後部のモーターでは出力を重視している。PMSMは(駆動時の)効率は高いが出力は小さい。