日野自動車の社長に就任した小木曽聡氏は、親会社のトヨタ自動車で3代目「プリウス」や「アクア」といったハイブリッド車(HEV)の開発責任者を務めた人物である。100年に一度の変革期。トヨタ社長の豊田章男氏は、何を期待して小木曽氏に日野のかじ取りを託したのか。同氏との会話から次のミッションが見えてきた。
(聞き手は窪野 薫、久米 秀尚)
日野自動車社長としてのミッションは何でしょうか。
乗用車・商用車問わずに自動車メーカーはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術の対応を急いでおり、もちろん私に課せられたミッションの1つでもあります。
しかし、CASEはコストがかかる。あくまでも手段です。目的は顧客や社会の役に立つこと。他社よりも少し役に立てるような技術を提供できれば、それだけ投資も回収しやすく、良い循環が生まれます。結果としてCASEの導入も他社より早く進められるでしょう。
こうした取り組みに数字は後からついてくる。例えば、うまく事業を回せた場合、売上高営業利益率は10%まで伸ばせるとみています(編集部注:21年3月期は同0.8%にとどまっていた)。
ただし、数字はわかりやすい指標であるのに対して、強調しすぎると一人歩きする可能性があります。まずは数字ではなく顧客や社会に役立つことを追求していきます。
今のような変革の時代は「GAFA」を代表とする巨大IT(情報技術)企業が躍進し、クルマを見てもソフトウエアの重要性や比率が高まっています。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務の効率化も進み、一昔前とは事業環境が一変しました。
もちろん、これらを取り入れるのも重要なのですが、当社の専門領域である人流や物流はリアルな要素が非常に強いのです。何トンのモノ、何人の乗客をどれだけ早く安全に目的地まで運べるか。ITやデジタルでは語れない部分も大きいといえます。
そのため、当社の事業活動はハードウエアが起点になります。ハードウエアの改良を追求しながら、ソフトウエアを組み合わせて顧客や社会の課題解決のために使っていく。この両輪をとにかく丁寧に回せることが当社の強みですし、新規参入の企業とは違う付加価値を提供できると考えています。
トヨタ自動車の役員ではなく、日野の社長としてのプレッシャーはありますか。
日野という会社を背負ったことは大きな変化ですが、すべきことは従来と同じと考えています。立場が変わると発言も変わってしまうパターンはあると思いますが、本質は変わらないはずです。