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日本の研究者は2つの「E」が足りない

 もう1つ、研究者は新しく出てきた課題や技術、エマージング(Emerging)なことや技術に飛びつくべきだと考えています。これも国内の多くの研究者が受け入れてくれない考え方です。大半の研究者は、自分が今やっていることを深掘りしたいと思っているからです。

 エマージングな技術が出てきたら、今まで自分が追求していた技術があっても入れ替えたり、融合させたり、これまでとは違った考え方を取り入れたりすべきです。当然、今まで自分がやってきたこととは大きく変わります。でも、自分1人の頭と工夫で深掘りするより、他の人がたくさん研究した成果を勉強して取り入れて研究を発展させる方が早いと思うのです。

 国内には能力のある研究者がたくさんいます。しかし、たとえ無理難題でも実現へ向かうイネーブリングと、新しい技術のエマージング、2つの「E」が総じて足りない。

 最近気づいたのですが、米国が常にイノベーティブな姿勢を失わない理由は、「何かをイネーブリングしたいという社会的な認識」が米国人の基本的な考え方にあるからだと思います。しかもそのためにエマージングな手法を積極的に使っていこうとする文化がある。

 良い例が米アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズ氏。彼の有名なスピーチに「ハングリーであれ」という一節があります*4。これはイネーブラーとしてハングリーであれという意味だと私は理解しています。「この問題を解決するぞ、これは実現するぞ」というハングリー精神は山ほどあってもいいはずです。

*4 「ハングリーであれ、バカであれ(Stay Hungry. Stay Foolish.)」は、故スティーブ・ジョブズ氏が2005年6月に米スタンフォード大学の卒業式に招かれた際のスピーチで、結びに使われた一節。もともとはジョブズ氏が青年時代に愛読していた雑誌「全地球カタログ(Whole Earth Catalog)」の最終号(1972年)背表紙に記載されていた言葉。

 ジョブズ氏は同じスピーチで「バカ(フーリッシュ)であれ、バカのままでいろ」とも言っています。これはエマージングな技術とか、新しいものに無心になって飛びついてみるべきだといった意味だと私は思っています。

 あんまり利口な感じではなく「いいから試してみっか」という意味でのフーリッシュです。このハングリーとフーリッシュみたいな文化が日本だとなかなか難しい。優秀な日本の研究者に「少しはバカになれよ」とか「ハングリーになれよ」なんて、なかなか通じないのです。

アディティブ製造(AM)で製作した金属製ジョイント部品。全体とラティス(格子)構造を同時に最適化した。菊池氏は1980年代から3Dプリンターの発展を見越してトポロジー最適化の研究に取り組んだ。(写真:早川俊昭)
アディティブ製造(AM)で製作した金属製ジョイント部品。全体とラティス(格子)構造を同時に最適化した。菊池氏は1980年代から3Dプリンターの発展を見越してトポロジー最適化の研究に取り組んだ。(写真:早川俊昭)
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