ヤマハ発動機にとって新たな挑戦となった――。同社は2019年8月、電池交換式の電気自動車(EV)スクーター「EC-05」を台湾市場に投入した。現地ベンチャーのゴゴロ(Gogoro)からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける格好で、外装デザインをヤマハ発が手掛けている。
モビリティー業界に押し寄せる100年に一度の変革期を乗り切ろうと、大手2輪車・4輪車メーカーは協業や提携、M&A(合併・買収)を進めて技術をかき集める。今回のヤマハ発とGogoroのような事例、すなわち大企業とベンチャーとの協業は、これからも当たり前のように増えていくはずだ。協業を円滑に進める上での課題と、それを解決するための“鍵”は何か。協業全体のヤマハ発側のリーダー(責任者)に聞いた。
(聞き手は窪野 薫=日経 xTECH)
ベンチャーと手を組んだきっかけは。
きっかけは、総合商社の住友商事だ。住友商事はGogoroに出資し、代理となって電池交換式EVスクーターのレンタルサービスを沖縄県石垣市(石垣島)で手掛けている。
一方で、ヤマハ発も他事業で住友商事との付き合いがあり、住友商事から「Gogoroと会ってみないか」という提案を受けて話し合いが実現した。
当時、我々も台湾にGogoroという面白そうな企業があり、かなり活発に事業を拡大していることは知っていた。同社の戦略にも興味があり、機会があれば話をしたいと思っていた。
Gogoroとコンタクトを取り始めたのは、車両発売の2年近く前、2017年秋のことだ。そこから数カ月で協業の話にまで発展。2018年初頭には、新型車両EC-05の企画の立ち上げに向けて「本格的に話を進める」ことで一致した。
協業の中でどのような役割を担ったのか。
規模や成り立ちは違うが、ヤマハ発とGogoroはお互い2輪車メーカーである。そのため、協業するには互いの機密を守った上で、必要最小限の情報のみをやり取りする必要がある。これを守れなければ、独占禁止法をはじめ、知的財産権の保護に関する法令にも抵触する恐れがある。
もちろん、これらの情報を外部に漏らしてはいけない。法令を順守しながら話を円滑にまとめるため、両社の数人ずつで構成する組織を作り、私はヤマハ発側のリーダー(責任者)を務めた。同様に、Gogoro側にも私と同じ立場の人間がいる。
ここから上手(うま)くコミュニケーションを取るのが難しかった。開示できる情報が非常に少なく、車両に関する情報を言いたいけど、言えない。(開発に関する)基準を見せ合うこともできず、お互いの言うことを信じるしかない。同じような状況が何回もあった。
通常の車両開発では、士気を高めるために「お酒を飲みに行こう、ご飯を食べに行こう」と話が進むが、今回のような競合同士がそれをやると、企業間の接触に該当してしまう。法令順守を最優先にしながら、意識の共有に向けて努力した。