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 カーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)の実現に向けて、自動車メーカー各社が電動化に舵(かじ)を切る中、海外では電気自動車(EV)の火災事故が増えてきている。こうした事故の一部では、質の低い安価な材料の使用や徹底した安全性試験ができていない電池の存在も背景にありそうだ。ホンダや韓国の大手電池メーカーSamsung SDI(サムスンSDI)でEV用の電池開発に深く携わった佐藤登氏(名古屋大学未来社会創造機構客員教授)に話を聞いた。(聞き手は岩野 恵)

佐藤 登(さとう・のぼる)氏
佐藤 登(さとう・のぼる)氏
名古屋大学未来社会創造機構客員教授、エスペック上席顧問、イリソ電子工業社外取締役。1978年ホンダ入社。自動車の腐食防食技術の開発に従事し、その社内成果で工学博士の学位を取得した後、90年本田技術研究所基礎研究部門へ異動。91年車載用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年にサムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当、12年退社。(出所:日経クロステック)
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そもそもEVのリチウムイオン2次電池はなぜ発火するのでしょうか。

 発火の原因は多種多様である。代表例としては、電池製造工程で混入した金属の異物が充放電を繰り返すうちに正極と負極を分離するセパレーターを突き破ることで内部短絡が発生し、火災に至る場合がある。他にも、充放電の条件や構成材料によっては、充電時にリチウムイオンが負極中へ取り込まれないために「デンドライト」という金属リチウムの針状結晶が生成される。これがセパレーターを突き破ると内部短絡につながり、発火の原因となるケースもある。

 衝突事故などで外部から大きな衝撃が加わると電池が破損し、火災事故に至る可能性が高まる。鉛蓄電池やニッケル水素電池は電解液が無機系で不燃性なのに対し、リチウムイオン2次電池の電解液は可燃性有機溶媒で、そもそも燃えやすい性質を持つ。

 また、電池を構成する部材が熱安定性に劣ると、過充電になった場合などに発熱が促進され熱暴走、そして火災に至る。電池を構成する部材は可燃性の物が多いので、一度火災に至ると消火が難しい。消火したとしても温度が下がらず、電池内部に熱がこもっていると再燃を繰り返すことがある。海外ではリサイクルのために保管してあるリチウムイオン2次電池から出火した事例もある。

 次世代電池として注目が集まる全固体電池の固体電解質は無機系で難燃性だ。これが普及すれば、火災事故の低減にもつながるだろう。かといって、全固体電池でも条件がそろえば火災事故に至るケースもあり、全固体電池だから火災事故は起きないとは言いきれない。

効果的な消火方法はありますか。

 公道での車両火災事故は、やはり大量の水で酸素を遮断しながら鎮火させる方法が現実的だ。EV用途のように電池容量が大きくなると、普通の消火器では消火が難しい。実験室や試験室での火災においても同様だ。私が上席顧問を務めるエスペックでは電池の安全性受託試験などを手掛けており、限界試験や過酷試験などの独自試験で電池が発火する場合がある。発火の際には頑丈な試験評価室内のスプリンクラーが作動し、十分な放水で消火している。

 試験終了後でも電池が化学的に不安定な場合が多い。安全に保管や輸送をするために、電池を塩水に浸して失活処理を行っている。その結果、短時間で効率よく完全放電できるので再燃を防げる。

 エスペックでは過去に、液体窒素の噴霧も検討したが、あまりにもランニングコストが高いので断念した。二酸化炭素を使って消火する方法もあるが、試験室内での使用は人命への影響が懸念される。結果として大量の放水が効果的、かつコストと安全の観点からも妥当といえる。