電力不足と未曽有の市場高騰に見舞われた昨冬から早9カ月。抜本的な対策が講じることができず、再び電力不足が起きる不安を抱えたまま、冬が近づいてきました。
そこで、本連載では国内外の電力市場を長年見てきたスプリント・キャピタル・ジャパンの山田光代表に日本の電力市場が抱える課題を解説してもらいます。初回は今冬の日米電力危機を振り返り、日本とテキサスの自由化の違いを整理します。

2021年初頭には、日本だけでなく米テキサス州でも深刻な電力危機が発生しました。どちらも深刻な電力不足と市場高騰が起きました。
山田氏 日本とテキサスの電力危機は現象としては似ていますが、電力自由化の進捗や電力市場の状況が全く異なるため、単純比較してはいけません。テキサスの市場設計や市場参加者は成熟していますが、日本はそうではありません。
テキサス州のISO(独立系統運用機関)であるERCOTは情報開示が非常に進んでいます。市場参加者はルールやリスクをしっかり勉強し、理解したうえで電気事業を手がけています。
日本とは異なり、先物市場なども発達していますから、小売事業者は先物取引やOTC相対取引など、様々な取引手法を駆使して市場価格の上昇リスクをヘッジしています。
電力は貯められない性質を持っていますから、電力市場価格はおのずとボラティリティが大きくなります。ですから、小売事業者は様々なデータを入手してモデル分析を行い、相場観を養いながら電力取引戦略を構築します。
ERCOTなどによる適切な情報公開、先物市場などのヘッジ手段の選択肢、そのうえで小売事業者の高いスキルがあって動いているのがテキサスの電力市場なのです。
日本は自由化しているのにもかかわらず、価格ヘッジ手段が乏しい状況が長らく続いてきました。情報開示も海外市場に比べて乏しいことを、今冬の異常な市場高騰で目の当たりにしました。
山田氏 繰り返しになりますが、電力市場とはそもそもボラティリティが大きいものなのです。電源調達を日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場に依存し、価格ヘッジ手段に乏しい日本の小売事業者は、大きなリスクを抱えながら事業運営しているわけです。
電力部分自由化から20年目の2019年にようやくTOCOM(東京商品取引所)で電力先物取引が始まり、2020年にEEX(欧州電力取引所)によるOTCクリアリング(清算業務)がスタートしました。日本でも先物が動き出したわけですが、欧米のように成熟するには、まだしばらく時間がかかります。