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 2021年8月に三菱重工業を離れ、日本電産グループの一員となった日本電産マシンツール。会社が目指す先は歯車工作機械などでの「ニッチトップ」から、工作機械業界の「世界一」に一変した。経営者として名高い日本電産の永守重信会長の下で、高成長に向けてどのような改革を進めているのか。日本電産マシンツールの若林謙一社長に聞いた。(聞き手は岩野 恵、近岡 裕)

日本電産マシンツールの若林謙一社長(写真:今 紀之)
日本電産マシンツールの若林謙一社長(写真:今 紀之)
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日本電産の傘下に入って1年がたちました。どんな変化がありましたか。

 最も変わったのは、意識です。日本電産は永守会長が明確な戦略を打ち出して、強いリーダーシップを発揮する会社です。当社がグループに仲間入りした2021年8月2日以降、永守会長は経営指導のために、月に2回は我々のところに来ていました。2022年2月以降は、日本電産が買収したOKK(現ニデックオーケーケー)にも時間を割くため当社に来る頻度は減りましたが、それでもずっと月に1回は来ています。もう合計で15回は来ているのではないでしょうか。

 その訪問の中で徹底的に指導されるのは意識改革です。我々は元三菱重工グループです。名は体を表すと言いますか、ちょっと重たい組織でした。機動的ではなく、意思決定が遅かったと言えます。永守会長には「甘い、それから遅い、そして中途半端だ」と指摘されました。おまけに「売っている機械が高い」とも。

社長自らが調達の最前線へ

何が「甘い」のでしょうか。

 例えばコストに対する意識です。商売をしているわけですから、製品を安く造り、お客様により良いサービスを提供し、ファンを増やしていくことが当然必要です。価格は市場が決めるので、利益を出そうと思ったらまずコストダウンは非常に大事ですよね。

 日本電産はハンズオンと言うか、誰もが当事者意識を持って状況を把握し、問題を解決する組織風土です。特に上層部ほどその意識が強い。コストの話で言えば、日本電産では役員が直接、調達先と交渉するのは普通のことです。私も日本電産グループに入ってから、調達担当者と一緒に値下げのお願いに行きました。三菱重工時代からお付き合いのあった取引先にもお願いしています。当然、値下げに応じる企業にもメリットがあってしかるべきなので、成長してボリュームでお返しすることをセットでお約束しています。

 経費の削減も徹底しています。無駄はたくさんあるわけです。例えば、まだ使える工具を捨てたり、計測器を大事に扱わずに壊してしまったりするようではいけません。裏紙の使用や人がいない部屋の消灯なども基本です。塵(ちり)も積もれば山となるという意味でも大事ですが、それ以上に、コスト意識を徹底して身に付けることに意味があるという考えです。

日本電産マシンツールの工場内の組み立て工程
日本電産マシンツールの工場内の組み立て工程
(写真:日本電産マシンツール)
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 一方で、ケチになってはならない。ムダなお金は1円も出さないが、生産性向上に寄与するなど必要なものはちゃんと買うべきだという意味です。ただし、買うにしても「交渉を重ねてベストプライスを引き出そう」というのが日本電産流。当たり前と言えばそうなのですが、結構骨が折れるわけですよ。値下げを頼む方も苦しいじゃないですか。でも、苦しいから中途半端にしか交渉しないというのは「甘い」姿勢です。甘さをなくすためには日ごろのコストに対する意識の徹底が不可欠なのです。

「甘さ」の克服に向けて、日本電産が協力する場面はありますか。

 例えばコストにおいて、日本電産グループ内で連携することがあります。日本電産にはグループ間で調達を一本化してコストを抑えたり、調達の交渉をサポートしたりする部門があります。購入電力の価格交渉ではその部門の助けを借りました。三菱重工時代はグループ全体の電気使用量が多いので、大口契約で安く電気を買っていると思っていましたが、それでさえ日本電産傘下に入ってからさらに安くなりました。

 サポートは価格交渉に限りません。同社は“One Nidec”という考えを徹底しています。M&A(合併・買収)で後から入った会社であっても、同じグループ会社ということで、色々な相談に親身になって乗ってくれます。三菱重工グループ時代は、機械のデパートと言われるくらい製品の種類が多く、共通性が低い事もあり、そうした協力体制にはなっていませんでした。

赤字から一転、利益率12%に

「遅い」という指摘については、その後変化があったのでしょうか。

 物事に素早く取り組む意識が身に付いてきました。我々はこれまで物事に取り掛かる際、計画をきっちり立てるところから始め、ついつい考え込むことが多かった。失敗しないで済むように石橋をたたいて渡る会社だったのです。しかし、計画を立てても、大概はその通りにいかないものです。期待通りの成果が出ずに、計画を後ろ倒した経験は多々あります。

 対して、日本電産はとにかくスピードを重視します。永守会長いわく「まずは行動、失敗してもええじゃないか」と。ちょっと粗くてもいいから、プロジェクトの全期間の半分程度の時間でまず1回は形にする。そうすれば仮にうまくいかなくても、まだ半分の期間が残っています。だから、早い内に軌道修正できる。もし3分の1の期間で形にできれば、3回軌道修正のチャンスが生まれますし、開発などが早く完了する可能性も高まります。日本電産の三大精神の1つである「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」を表していると思います。

社員の意識改革が進めば、成長が加速しそうです。

 日本電産の社風・文化として培われた、徹底的に取り組む姿勢や当事者意識、すぐやるという時間感覚は我々にとって大きな刺激です。当社で働いている約1000人が、どんどんこうした教えを吸収して変わっていくと、すごく大きなパワーになります。成長のための基礎ができつつあるのではないかと思っています。

 意識の変化は既に数字に表れ始めました。グループに入った2021年8月は赤字だった月次決算が、その年の12月には営業利益率12%にまで改善しました。新型コロナ禍からの回復の波に乗っていた時期でもあるので、12%という数字を常に維持する水準には至っていませんが、コストに対する意識の変化は確実に収益増に貢献しています。