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米グーグルのバイスプレジデントで、グーグルネスト(スマートホーム部門)でCTO(最高技術責任者)を務めていた松岡陽子氏が、パナソニックに、役員待遇の「フェロー」として2019年10月17日付で移籍した(発表資料)。米シリコンバレーの新事業創出拠点「パナソニックβ(ベータ)」のCEO(最高経営責任者)に就任し、次世代の製品やサービスの開発に取り組む。松岡氏は脳科学が専門で、グーグルの次世代テクノロジーを開発する「グーグルX」を立ち上げた経験も持つ。そんな松岡氏はパナソニックでどのような役割を担うのか。Panasonic βの仕掛け人でもあり、ビジネスイノベーション本部長の馬場渉氏とともに日経BPシリコンバレー支局の単独インタビューに応じた(関連記事)。(聞き手は市嶋洋平、根津禎=シリコンバレー支局)

右が松岡陽子氏、左が馬場渉氏
右が松岡陽子氏、左が馬場渉氏
(撮影:日経BP)
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松岡氏の移籍の経緯を聞かせてほしい。

馬場氏:パナソニックは2年半ほど前に、事業部門ごとに活動する「タテパナ(縦のパナソニック)」から各事業部が連携する「ヨコパナ(横のパナソニック)」へ本格的に動き始めた。これは突然始まったことではない。社長の津賀(一宏)が、以前から「クロスバリューイノベーション」と言っていたものだ(関連記事)。それぞれが単独で戦うコングロマリットではなく、横につないで新しい価値を生み、イノベーションを起こしていく。例えば、今からゼロベースで家を設計したらどうなるのかというものだ。

イノベーションを起こすには、(会社の仕組みや組織などを変える)「コーポレートイノベーション」と(革新的な製品やサービスを開発する)「プロダクトイノベーション」の両方が不可欠である。プロダクトイノベーションに向けて、実際に商品を開発して人に届けるリーダーが必要だと常々考えていた。そのリーダーにふさわしいのは松岡だと思っていた。

 実は、ヨコパナの取り組みを本格的に始めた約2年前に、松岡に会った。パナソニックに来てほしかったからだ。だが、そのとき彼女は、ネストで精力的に働いていたので難しいと思っていた。それ以来(パナソニックは)どうか、というような話をしてきたものの、来てもらうには何か「実体」がないといけないとも思っていた。

 そうして2年が過ぎた2018年10月に、我々が手がけた「HomeX」という家庭のくらしを統合的にマネジメントするプラットフォーム(基盤)システムを発表した(関連記事)。HomeXを採用した住宅は既に100軒以上に達した。こうした「成果」を松岡に見てもらい、関心はないかと打診した。

松岡氏:当初、馬場に会ったときはそうした意図は伝わってこなかった(笑)。ネストとの協業について話したくて来ているのだと思っていた。そのときから馬場のビジョンや話を聞いて「こういう人と働きたいな」と思っていた。同時に、パナソニックは本当に変わろうとしていると感じていた。

 今から半年ぐらい前から、(パナソニック移籍に関する具体的な)話が出始めた。馬場から、パナソニックの企業としての「DNA」やPanasonic βでの成果などについて話を聞いた後に、「次のステップに進むために、協業という形ではなく、パナソニックの『中』に入っていただきたい。興味ありますか」と申し出があった。

馬場らが(HomeXという)ステップを作った。それを受けて、パナソニックで製品を作っていきたい、作らなければいけないと思って移籍した。

 また、大阪にあるパナソニックミュージアムの「松下幸之助歴史館」に行った際、創業者である松下幸之助が100年前に自分の妻を家事から解放してあげたいと考えていたと知り、感動した(ことも背中を押した)。その考えがパナソニックの「DNA」として根底にある。米国では、そうした考えを持つ創業者はほとんどいないだろう。