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 三精テクノロジーズが開発した巨大4足歩行ロボットの外装デザインを手掛けたのは、「機動戦士ガンダム」や「スター・ウォーズ」をはじめとするプラモデルのボックスアートなどを描き、声優としても活躍する天神英貴氏。ロボット愛好者で、実は学生時代にロボット工学を専攻していた。デザインと工学の両方の知見を持つ同氏ならではの発想を深掘りした。(聞き手は、岩野 恵=日経クロステック/日経ものづくり、中道 理=日経クロステック/日経エレクトロニクス、吉田 勝=日経クロステック/日経ものづくり、東 将大=日経クロステック)

イラストレーター・メカデザイナーの天神英貴氏
イラストレーター・メカデザイナーの天神英貴氏
(写真:日経クロステック)
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三精テクノロジーズの巨大4足歩行ロボットのデザインを手掛けた経緯を教えてください。

 新型コロナウイルス禍で人との出会いが少なくなった時期に流行した音声SNS(交流サイト)の「Clubhouse(クラブハウス)」で(のちに巨大4足歩行ロボットの制御ソフトウエアを手掛ける)アスラテック(東京・港)の吉崎航さんと偶然一緒になったのが事の始まりでした。私は「マクロス」や「ガンダム」「スター・ウォーズ」などのイラストを仕事として描いていますが、実は大学時代の専攻はロボット工学です。1970年代生まれなので「マジンガーZ」、「鉄腕アトム」などのアニメーションファンで、ロボットというものにものすごく憧れを持っていました。特に「機動警察パトレイバー」という作品が大好きで、大学時代にどうしてもロボットを造りたかったのです。

 ところが今から30年以上前のロボット工学なので、ロボットは2足歩行なんてしない時代でした。物理学も古典から新規まで山のようにあり、会得が大変で、結局ロボットを造る道は途中で諦めてしまいました。だから私からすると吉崎さんは憧れの商売をしている方だったのです。吉崎さんももちろんロボット関連の作品が大好きで、すぐに意気投合しました。「デザインやイラストでできることがあれば協力したい」と伝えていたところ、後日、吉崎さんから三精テクノロジーズの4足歩行ロボットの話を紹介されました。

4足歩行ロボットのプロジェクトの話をどう受け止めましたか。

 人が乗る4足歩行は、冷静に考えると大変危険なものです。歩行するだけならまだしも、人を乗っけようとするプロジェクトは本当に驚きでした。ただ、三精テクノロジーズは有名テーマパークの遊戯機械に占めるシェアが非常に高い。つまり人がちゃんと乗れるものを造ることができる会社です。きっとこの4足歩行ロボットは世の中に出るとピンときました。だから「なんとしてもやらせてくれ」と意気込みましたね。前のめりになっているのを隠そうと必死でした。

実際に動くロボットを見て、どう思いましたか。

 私にはロボットにまつわる悲しい思い出もあります。大学ではたくさんのロボットに触れましたが、造っても動かなかったロボットは山ほどありました。ロボットが人に支えられながら歩かされているのを見て、当時は頭を抱えたものです。

 だから、窓から西日が差す工場の中でゆっくり足を踏みしめながら動く4足歩行ロボットを見たときは、もう感動しました。工場に差し込む光による陰影も素晴らしく、何枚写真を撮ったか分かりません。そのときのロボットは(外装を着ける前の)スケルトン状態で、開発途中のロボットを見られるというのは、この上ない喜びでした。また、色々なロボットを動かすアスラテックの制御システム「V-Sido(ブシドー)」の万能さ、開発者の吉崎さんの天才ぶりを改めて実感しました。

外装を着ける前の4足歩行ロボット
外装を着ける前の4足歩行ロボット
(写真:日経クロステック)
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4足歩行ロボットを見てすぐにデザインのアイデアが浮かんだのでしょうか。

 実物を見た日、関係者と夕食に行くまでに30分ぐらい時間があったので、すぐに作画を始め、夕食の時点で3パターンを披露しました。実際に駆動するロボットを見ると、様々な制約があると分かりました。これは逆にロボット工学出身のメカデザイナーである私の手腕を見せられるチャンス。なぜならアニメのロボットはどう考えても動かない(無理のある)デザインが多いのです。(重心位置が高い)トップヘビーのデザインでも重量計算する必要がありませんし、パーツ同士の干渉も問題になりません。

 一方、実際に動くロボットをデザインするには工学的な知識が必要です。例えば制約の1つに、足の形状がありました。この4足歩行ロボットは、(人間だと大腿部とひざ下に相当する)足を重ねるように折り曲げて座るので、足に突起物があるとぶつかってしまいます。しかし、凹凸をなくすと見た目がつまらなくなる。だから重ねる足のうち、片方を出っ張らせたら、もう一方をへこませてブロックが合わさるようなデザインにしようと思いました。それならのっぺりして見えるのを防げます。さらに、凹凸の1個1個が意味を持つかのような色や形にし、本来備えているものよりもっと高度な機能を持っているように錯覚してもらうのです。

足を折り曲げて座ったロボット
足を折り曲げて座ったロボット
足同士が重なるため、外装に凹凸を設けるのが難しい。(写真:日経クロステック)
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