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 高成長が期待される産業ドローン市場で、黒子的な存在ながら注目されている企業がある。ソニーグループ(当時はソニー)のパソコン事業からスピンアウトして誕生したVAIO(長野県安曇野市)が2020年3月に設立したVFR(東京・渋谷、当時は子会社で現在は関連会社)である。パソコン事業で培ってきた設計・製造技術やサプライチェーンを武器に、ドローン事業者などに対して機体の開発技術や部品、ソリューションを提供している。国内のトップメーカーであるACSLの機体開発を手掛けたのはその一例だ。VFR代表取締役社長の湯浅浩一郎氏に、産業ドローン市場の展望や戦略などを聞いた。(聞き手:内田 泰=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

VFR 代表取締役社長の湯浅浩一郎氏
VFR 代表取締役社長の湯浅浩一郎氏
(写真:日経クロステック)
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ドローン市場には、マルチコプター型で約7割のシェアを持つとされる、中国大疆創新科技(DJI)という巨人が存在します。同社は2020年12月に米国政府のエンティティーリスト(禁輸リスト)に入りましたが、それによる影響を強く受けているのでしょうか。

 実質的に大きな影響は受けていないように見えます。その理由は、アプリケーションも含めた圧倒的な使い勝手の良さにあります。

 個人的にDJIが素晴らしいと思うのは、IT(情報技術)機器のような感覚でドローンを造っていることです。米Apple(アップル)やソニーグループなどと同様、ハードウエアを中心にクラウドを活用したサービスを提供できていることや、SDK(ソフトウエア開発キット)を提供してエコシステムを構築できている点に強みがあると考えています。

空撮ドローンやホビードローンが中心のこれまでの市場はDJIの寡占状態でしたが、今後、物流や点検、測量、農業などさまざまな産業ドローンが普及していくと、市場の勢力図は変わっていくのでしょうか。

 私は現在のドローン市場が、かつてアップルが「Macintosh」を世に送り出した1980年代の状況に近いと考えています。パソコンの世界ではその後、米IBMのオープンアーキテクチャー上で動く基本ソフト(OS)を米Microsoft(マイクロソフト)が開発し、爆発的な普及を導きました。

 こうした歴史を振り返れば、10年後のドローン市場は現在とは異なる様相を呈している可能性が高いと思います。やはり、オープンとクローズドでは、ソフトウエア開発の面で圧倒的にオープンが勝つんです。多様なニーズがある産業用ドローンの世界では、アップルのように完全クローズドなやり方では大きな成長は望めません。もちろん、DJIはなくならないと思いますが、パソコン業界におけるアップルのような存在になっていくでしょう。

ドローンの世界にもオープン化の波が来るなかで、御社は何を強みにビジネスを成長させていく戦略なのでしょうか。

 米国企業はソフトウエア開発やクラウドを活用したサービスが得意です。では、米国企業があまり手掛けていない部分はどこかといえば、ハードウエアです。

 産業用ドローンでは多様化が進みますが、ハードウエア開発においては、安全性や信頼性を担保するため、機体の標準化が求められます。ネット通販で調達できるような部品を使っていては、良質なものはできません。つまり、工業製品をきちんと造るためのオープンプラットフォームが必要なのです。

 これはドローンに限ったことではなく、今、世界ではIoT(Internet of Things)の「Things(もの)」の多様化に対応した、きちんとした工業製品が造れないことがボトルネックになっています。

 VFRは、VAIOから生まれたテクノロジー企業ですが、ドローンを含めた工業製品を造るためのプラットフォームを開発することをゴールとしています。具体的には、量産設計や製造技術を強みに、モジュール化をした方がいい部分はどんどん機能部品化していくというのが戦略です。なお、ここでいう工業製品とは、スマートフォンなどの情報端末というより、無人地上車両(UGV)などのより複雑な機器をイメージしています。