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 年々市場が拡大している3Dプリンター〔付加製造(AM)装置〕。日本でも利用が増えつつある一方、欧米と比較すると普及は遅れている。3Dプリンターは高機能製品の製造も可能にする技術だ。金属3Dプリンターの権威である近畿大学次世代基盤技術研究所特任教授の京極秀樹氏は「普及の遅れは日本の産業競争力低下につながりかねない」と警鐘を鳴らす。日本で3Dプリンターの活用が進まない背景と、普及に向けて取り組むべき課題について聞いた。(聞き手は、岩野 恵=日経クロステック/日経ものづくり)

近畿大学次世代基盤技術研究所特任教授の京極秀樹氏
近畿大学次世代基盤技術研究所特任教授の京極秀樹氏
(写真:橋本正弘)
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お金になる未来をつくり出さないと生き残れない

日本と海外の3Dプリンターの活用状況を教えてください。

 前提として、3Dプリンターの代表的な造形材料は樹脂系と金属系に大きく分けられます。私は粉末冶金やレーザーを使った積層造形技術を主な研究対象としているため、金属3Dプリンターについてお話します。現在日本では、400~500台の金属3Dプリンターが使われているといわれており、過去10年ほどで着実に増えました。あまり事例が表に出てきませんが、歯科などの医療分野や金型関連で使われるケースが多いです。とはいえ、世界の金属3Dプリンター市場に占める日本の割合はたった数%とみられ、欧米と比較すると断然シェアが小さいのが現状です。

 世界では最終製品に3Dプリンターを利用する流れが加速しています。米Protolabs(プロトラブズ)が2021年に行った調査によると、約3分の1の回答者は最終製品に金属3Dプリンターを使っていました。半分弱を占めた「試作(プロトタイプ)用」に次いで多い用途でした。米国機械学会(ASME)が主に航空宇宙業界の400社余りを対象に行った調査でも、約5割が実製品の製造手段として金属3Dプリンターを使えると答えており、採用が進んでいる状況がうかがえます。

3Dプリンターを使う利点は何ですか。

 製品を高機能化できるのが大きな利点です。例えば、今需要が伸びている電気自動車(EV)などで使う熱交換器の性能を高めるのに役立ちます。EVの出力が上がると、空冷より冷却性能が高い水冷が求められます。理想的な冷却管の配置はシミュレーションから導き出せますが、従来工法では造れない場合も多い。そんな複雑形状も3Dプリンターなら造形できます。

3Dプリンターで造形した熱交換器
3Dプリンターで造形した熱交換器
3Dプリンターの展示会「Formnext 2022」でドイツTRUMPFのブースに展示されていたもの。(写真:日経クロステック)
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 AMなどの研究開発をする英国のThe Manufacturing Technology Centre (MTC)は3Dプリンターで実際にEVの電動アクスル(イーアクスル)を試作しています。もちろんEV関連だけでなく、金型やロケットのエンジンなどでも冷却性能の向上は重要で、3Dプリンターを利用した高機能化が図られています。他にも、部品の一体化や軽量化のために3Dプリンターを活用するケースが多くみられます。

 新型コロナウイルス感染症の拡大で注目を集めたサプライチェーンの強靭(きょうじん)化という点でも、3Dプリンターは役立ちます。データさえ送れば、装置がどこにあっても同じ製品を造れる技術だからです。物流が滞ったときに足りない部品などを少量造るにはもってこいです。さらに、最近では自動車部品などの小型部品を大量生産する試みもなされています。恐らく今後の生産システムは3Dプリンターを活用した柔軟なものに変わっていくでしょう。

日本でもっと3Dプリンターを普及させるべきだと考えますか。

 日本の産業競争力強化に3Dプリンターの普及は欠かせないと考えています。なぜなら日本で従来工法の鋳造や鍛造を担う熟練工の数が減っていくのは目に見えているからです。従来工法での強みが薄れていく環境で、製品の高機能化などを可能にする3Dプリンター関連の技術を使わないと、日本製品がだんだん世界で負けるようになる可能性が高い。白物家電や半導体のように、気付いた時には日本がものづくりの優位性を失っていたといった事態になりかねません。

 米国では既に鋳造のノウハウが失われつつあり、ボタン1つでものを造れる3Dプリンターのニーズが高まっています。約10年前に当時の米国大統領だったバラク・オバマ氏が国家プロジェクトとして3Dプリンターに投資をすると宣言し、軍事関係の予算も付けて、実現しています。そして、2022年5月に米国のバイデン大統領は、大手メーカーが米国内の中小企業から3Dプリンターで製造した部品を調達することを支援する政策方針「AM Forward」を発表しました。既に(航空機エンジンメーカーの)米GE Aviationなどが協力を表明しています。

 米国は今までであれば外国で製造したものを輸入すれば問題ないとしていましたが、米中貿易摩擦やコロナ禍、ウクライナ問題を経てサプライチェーンに対する考えが変わったのではないでしょうか。3Dプリンターを活用してよそ(海外)に頼らないものづくりをしようという意気込みを感じます。米国の大学は3Dプリンターの人材育成プログラムなども用意しています。日本にはこうした10年後を見据えたビジョンが欠けています。3Dプリンターがお金になる未来を確信できるまで投資しない、ではなく、逆にお金になる未来をつくり出していかないと生き残れないと思います。