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 2020年11月17日、NTTによるNTTドコモのTOB(株式公開買い付け)が成立した。ドコモは近く上場廃止となりNTTの完全子会社となる見通しだ。そんな動きに焦りを見せるのがKDDIだ。政策議論をせずにNTT再結集が進む現状に「違和感」があると指摘。総務省が2020年12月に開始する公正競争環境を検証する有識者会議で課題を訴える準備を進めている。有識者会議でどんな論陣を張るのか。KDDI社長の髙橋誠氏に聞いた。(聞き手は堀越 功=日経クロステック、榊原 康=日経クロステック/日経コンピュータ)

「議論抜きでドコモ完全子会社化が認められる状況に違和感がある」と語るKDDI社長の髙橋誠氏
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「議論抜きでドコモ完全子会社化が認められる状況に違和感がある」と語るKDDI社長の髙橋誠氏
(撮影:新関 雅士)

NTTによるドコモの完全子会社化を制度面から止めるすべはないという理解です。どんな課題があると考えているのでしょうか。

 過去からNTTの分離・分割の流れがあり、2000年以降もNTT持ち株会社によるNTTドコモの出資比率を減らしていく方向で議論が進んでいた。にもかかわらず大きな政策議論もせず、「環境が変わった」という一言でドコモの完全子会社化を容認してしまった。こうした状況に懸念を感じている。

NTT持ち株会社による出資比率の引き下げについては法律的な担保があるわけではありません。攻め手に欠く印象があります。過去と市場環境も大きく変わりました。

 確かに固定通信が強かった2000年当時と比べて環境が大きく変わった。では環境が変わって過去の議論をどう変えていかなければならないのか。そういう議論があってしかるべきだ。NTTの独占回帰と公正な競争政策は、どう考えても二律背反する。何も議論されないことが恐ろしい。ここまで競争政策を進めてきた総務省にとっても課題が残るのではないか。

武田良太総務相や公正取引委員会の菅久修一事務総長は、国際競争力強化といった観点でNTTによるドコモの完全子会社化を容認する姿勢を見せています。

 国際競争力を高めるためにNTTだけ強くなればよいのか。GAFAへの対抗といわれているがまったく意味不明だ。同調できない。当社からするとNTTの光ファイバー網をもっと使いやすく開放し、その上に5G(第5世代移動通信システム)や6Gのネットワークを構築する。それをIoTビジネスに活用し、これまでのものづくりのビジネスに通信を介したデジタルトランスフォーメーションによる付加価値を高めることこそが、国際競争力を高めるのではないか。NTTだけが強くなればよい話ではない。我々もソフトバンクも楽天も頑張らなければならない。

総務省は2020年12月3日にNTTと他の通信事業者の公正競争環境を検証する有識者会議の議論を開始します。ここではどんな意見を訴えるつもりでしょうか。

 まず上記のような我々が考えている国際競争力について説明する。次にそれを推進するために必要な環境整備について述べる。ポイントとなるのはNTT東西の光ファイバー網だ。5Gからビヨンド5G、6Gとなると、利用する周波数帯が高くなるため(電波が遠くまで飛びにくくなり)、基地局をつなぐ光ファイバーの重要性が増す。今回の主張でも民間の活力で国力を高める点は何ら反対ではない。総務省の競争促進についても異論はない。ではなぜその答えがNTT独占回帰なのか。それよりも大事なものがあるので環境整備が必要というのが基本的な論点だ。

NTT東西の光ファイバー網は、現在も通信サービス提供に不可欠なボトルネック設備として厳格なルールに基づいて公平な提供が義務付けられています。NTTドコモが完全子会社化されても、NTT東西とドコモの一体化を防ぐ法律は既に存在しています。

 ボトルネック設備に対する法律はあるものの、運用とコストの部分でまだまだ差配できる余地が残っている。実際、NTT東西の光ファイバーの卸料金は、これまでほとんど下がっていない。ドコモを完全子会社化すると、現行のルールの中でグループの利益を最大化し、競争事業者を排除するようなことができてしまう。例えばNTT東西が光ファイバーの卸料金を100円から120円にした場合、NTTドコモは20円損するが、当社やソフトバンク、楽天も120円で借りなければならなくなる。トータルではNTTグループが得をするという構造を簡単につくれてしまう。光ファイバー網の貸し出しについて、運用とコストの観点でもっと透明化していく必要がある。よい機会なのでそれを解決するための方策を示す。